呪いの力

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何もせずにずっとベッドで寝ている。 毎朝、ドアの下に水が入ったバケツが一つ置かれる。 それで顔を洗ったり体を拭いたり掃除をしたりしていた。 それ以外何もする事がなかった。 一年ほど経った時、バケツの水面に何かが映るのが見えた。 自分の汚い顔かと思って覗き込む、しかしそれは違った。 水面に外の景色が映っていた。 私はバケツの水面から、外の世界を見る事ができたのだ。 水をぐるっと指でかき混ぜると別の景色になった。 それからは毎日、外の世界を見た。それはとても面白く興味深かった。 同じ年齢の子供たちが、どうやって過ごしているかをそこから学んだ。 お気に入りのお母様もできた。 お兄様もお友達も、すべて水面に映る世界から見つけ出した。 水の中の世界からは、振動で音を拾う事ができ、目で見る事ができる。 けれど手に取る事はできないし、匂いも嗅げない。温度は分からないし、味も勿論分からなかった。 七歳になる頃には学校へ行く事ができた。水面の世界で勝手に授業に参加して、文字や新しい言葉を覚えた。 劇場で歌劇を観たり、海を泳ぐ姿をみたり、乗馬や狩りをしている人を見たりしていろんな知識を蓄えた。 一年経つ頃には、八歳で十三歳の授業を理解した。 実際に通っていたのなら私はきっと優等生だっただろう。 外に出たいとは思わなかった。なぜなら私は汚れていたからだ。 水面の世界の人々のように石鹸を使った事もなければ、髪を梳かしたこともなかった。 年頃になると子供たちは皆、王都学園に入学するようだった。 そこには魔法科があった。 私は呪いの力があると言われている事から、何らかの魔法が使えると思っている。 数ある学科の中から魔法科の授業を受ける事にした。 魔法を使う事ができれば、石鹸を作り出す事ができるかもしれない。 そう思った。 その時私は十歳だった。
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