学園での生活

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学園での生活

王都学園に通いだすと、ロイは一気に忙しくなった。 昼間の授業中は、鏡を使い話をする事はできない。 独り言を話している変なやつだと思われる。それに私と話をする必要もなかった。 知らない事は授業で習うし、調べ物には図書室がある。 私は学園の勉強は全て終えているから、一緒に授業を受ける必要はなかった。 学園には同じ年齢の令嬢や令息たちが沢山いた。 高位貴族たちはロイに興味があるようで、意外によく話しかけられていた。 魔法科に入った事が優等生の証だというように、皆がロイに注目していた。 逆に下位貴族令息たちは、ロイを気に入らないようだった。待ち伏せして喧嘩を吹っ掛けたり、足を掛けて転ばせようとしたり、階段から突き落とそうとした者さえいた。 けれどロイは全て返り討ちにしていた。 そのままやり返しては、身分が下のロイは罪に問われる可能性がある。 だからロイは考えた。 剣術の授業中、殴った相手を滅多打ちにしたり、階段から突き飛ばそうとした者をひょいと避けて自ら自爆させたり。自分の手を汚さず、他人をつかい仕掛けてくるような卑怯な者には、教師に変装して勝手に罰を与えた。 そのうち、あいつに手を出すとヤバいという噂が立ち、誰もロイに手を出さなくなっていった。 学園の廊下で、ロイは突然話しかけられた。 名前はフィリップ王子。 彼は国王の側妃が産んだ三番目の王子だった。 「君が特待生で入学したロイだね」 「はい」 皆が王子に対してするような、礼の姿勢を取ってロイは彼に頭を下げた。 「かまわないよ。学園では身分は関係ないからね」 それは建て前だという事をロイは知っている。 サブリナは、ロイが王族の誰かと話をする事を嫌った。仲良くして欲しいとは思わなかった。 「君は他の貴族令息とは違って僕に媚び諂う事はしない」 「まぁ……あまり、そういった(貴族たちの)世界の事は分かりませんので」 「ははっ、そうだろうね。正直、窮屈で、結構辛いものだよ」 何が窮屈なんだろう。 明日の食べ物の心配をしなくて良い生活の、どこが辛いんだろう。 二人が話をしている姿を見るだけで、イライラしてしまった。 私はこんなに離れた場所で、何もできずに様子を静観する事しかできない。 同じ年齢だというのに、フィリップと私の差は何なのだろう。男子と女子の違いだけなのか。私はただ、運が悪かっただけなのだろうか。 けれどロイは、そんなサブリナの考えとは別に、フィリップとどんどん仲良くなっていった。 ロイは変装の腕が上がった。 そっくり同じ人物に変身できるようになったのだ。 例えば国王に化ける事もできたし、産まれたばかりの赤子になる事さえできた。 魔法科の授業で魔法学について勉強し、自分の力をどうやって使えば効率的かを学んだ。 ただ、自分が他人そっくりに変身できる事は秘密にしている。 教師にも教えていなかった。 ロイの魔力は変身ではなく、自分を若返らせたり年老いさせたりできる事だと説明した。勿論それでも凄い事だけれど、聞いた事もない魔法に、皆疑わしく思い訝しんだ。 けれどロイが子供の姿のロイになった時には、教師たちも腰を抜かさんばかりに驚いた。 ロイが自分以外の他人になれると、教師や他の誰かに知られる訳にはいかない。 なぜなら、ロイはその時、王都を賑やかしている、有名な『怪盗ベルベット』になっていたのだから。 ◇ 『怪盗ベルベット』というのは、今王都で噂になっている泥棒だ。 ロイと私が狙うのは、違法な商売で儲けている富豪や、汚い手法で利益を得ている高位貴族。暴力にものをいわせて、殺人もいとわないような強盗団から、多額の金を奪い取る。 私が裏を取っているので、確実に罪がある者からしか盗まない。 そして、盗んだ物は、貧しい教会や孤児院に置いていく。 人を疵つけることもなく、貧しい民に施しを与えてくれる『怪盗ベルベット』は国民のヒーローのような存在になっていった。 王宮に出仕する高位貴族たちは躍起になって彼を捕らえようとしたが、なかなか尻尾を出さない。 国王は怪盗ベルベット捕縛の為に国の軍まで動かしたが、それでも捕まえる事はできなかった。 新聞は国が総力を挙げて、ベルベットを捕まえようとしている様を面白おかしく書き立てた。 『犯罪者は特別な存在ではなく、あなたの隣にいる平民かもしれない』 その文言で、身分差別に苦しんでいる者たちは、貧乏人だけが割を食う世の中に希望の光を見出した。 王宮に忍び込んで国庫を襲うのは流石に難しい。だからロイは国が資金を出している博物館や美術館を狙った。 芸術品が好きで、そこに湯水のように金をつぎ込んでいる王妃を苦しめる為でもあった。 美術工芸品が盗まれるたびに、王妃はかなり怒り狂った。 私たちは盗んだ物の代わりにその場にカードを置いてくる。 『ベルベット』という名で。 その名にした一番の理由、それはベルベットがサブリナの母の名前だったからだ。 この事件が大きく取りざたされ『ベルベット』の名前が新聞に載るたびに思い出せばいい。 王妃……貴方が殺した母の事を。
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