緊急発進命令

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こうなってしまっては、もはや敵の意図がどうであるかなど関係ない。 命の危機に直面している同胞達を守り抜く事が、今の状況ではアメリカ海軍兵士として当然の使命である。 「本作戦の航空隊指揮官として、敵機によるアメリカン航空機への明らかな攻撃の意図を認めます。よって、ブレイブソルジャーズ全機に敵戦闘機との交戦許可を与えます。ブレイブソルジャーズ全機は、直ちに敵戦闘機を殲滅して下さい」 ピョンはまたたく間にチーム全体に敵機との交戦を許可すると、自分のチームのどの戦闘機よりも先に、旅客機を攻撃しようとしている戦闘機に対してミサイルを発射した。 しかし、そのミサイルは敵戦闘機の巧みな回避行動によってかわされてしまう。 ここをピックアップしてみると、一見ピョンの放ったミサイルが命中しなかった事に落胆しそうになるが、この時ミサイルを放ったピョンの目的は、どちらかと言えばミサイルで敵を撃ち落とす事ではなく、敵戦闘機に旅客機を攻撃させないためにミサイルを放ったと言ったほうが正しいと言える。 つまり、敵が旅客機を攻撃する前に先制攻撃を仕掛ける事で、ミサイルを撃たれた側はすぐにミサイルを回避する機動をとらなければ被弾してしまう訳だから、一時的にアメリカン航空機への攻撃をキャンセルして、ピョンの機体から放たれたミサイルを回避する必要がある。 そうする事でピョンは敵が旅客機を再度攻撃するまでの時間を稼ぐ事が出来る訳で、ピョンのミサイルを交わした敵戦闘機が再びアメリカン航空機を攻撃しようとした時には、ピョンはこの戦闘機の後ろに回り込み、敵に対してより優位な位置関係で敵戦闘機をロックオンしていた。 「チェックメイト」 コックピット内で静かにそう囁いたピョンの戦闘機から発射された二発目のミサイルは、他の誰が見ても敵戦闘機を確実に捉え、撃墜すると思われた。 しかし、この二発目のミサイルも敵戦闘機の巧みすぎる回避機動によってかわされてしまう。 そこに居る誰もが命中したと思った程完璧なタイミングで放たれたミサイルが外れた。 ピョンはこの時、敵の回避機動を後ろから見ていて、ある違和感を覚えた。 敵の戦闘機は、ピョンのミサイルを交わすために、かなり無理な体勢で急旋回を行った。 それでも敵戦闘機はピョンの目の前を飛び続けているのだから、物理的にその急旋回は可能なのだろう。 だが。 「あんな角度での急旋回、パイロットは発生した負荷に耐えられなくて、絶対に気絶する」 それがその時にピョンが独り言のように漏らした無線の内容だった。
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