プロローグ

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プロローグ

「……」 荒れ果てた大地を、小高い丘から眺める男がいた。 「酷い有様だ」 男はぽつりと独り言を言う。その声は悲み、悔しさが滲み出ていた。 どれくらいの時間が経っただろう?その男の後ろに、音もなく、銀色の長い髪の男が現れた。 「懐かしい気配だな……エナンか?」 後ろの男に、前に立つ男が言う。 「あぁ……久しいな」 「最後に一緒に戦って以来か?」 エナンと呼ばれた青黒い肌の男は、ゆっくりとした足取りで歩き、彼の横に並んで立つ。 「そうだな、クロウ」 エナンは、横にいる男をクロウと呼び、横目で彼を見る。クロウもまた、青黒い肌をした男だった。 「ったく……非道い有様だな」 不意に、クロウが口を開いた。 「あぁ……奴らがクーデターを起こしたせいだな」 エナンは、眉間に(しわ)を寄せながら言う。 「奴らがクーデターを起こしてから、緑の大地がこんなにも荒れてしまうとはな・・・」 「あぁ……莫大な魔力を使ったせいで、こんなことに……」 「元に戻るのにどれくらい時間掛かると思ってんだ?奴らは?」 クロウは、地べたに腰を下ろし、溜息混じりの言葉を吐く。 「……」 エナンは何も返す言葉が無く、しばし黙り込む。 「クロウ……」 「何だ?」 「奴らとの決着を付けに行こうと思ってる」 「そうか……」 「急で悪いが……もう一度、力を借して欲しい!」 「……」 エナンの言葉に、クロウは黙り込む。 「悪いが、力は借せない」 「何故!?」 「疲れたのさ……」 「疲れた?」 「あぁ」 クロウはゆっくりと立ち上がり、エナンに体を向けて向かい合う。 「お前らしくない……いつから卑屈になったんだ?」 「さて?何時からだろうな?」 お互い、苦笑いしながら会話を続ける。 「俺もお前も、失った物がデカすぎる」 「あぁ、クロウは父親……私は妻……」 エナンは、途中で口を(つぐ)む。クロウから、それ以上言うなと言う圧力を感じたからだろう。 「エナン、お前に渡したい物がある」 「渡したい?」 「あぁ」 クロウはそう言うと懐から、金銀で装飾された黒い玉の首飾りを取り出す。 「おま!!それは……!」 「シッ!」 クロウは右手の人差し指を、自分の口元へ持って行き指を唇と交差するように当てて、彼を黙らせる。 「こんな大事な物……受け取れるわけ……」 「良いから!」 「ッ!何故これを私に?」 「これを見せたら分かると思う」 クロウは、指を“パチン”と鳴らす……すると、小高い丘の真ん中に巨大な魔法陣が現れた。 「お……お前!“転生”する気かッ!?」 「あぁ、闘いに疲れてな……争いの無い世界に生まれ変わりたいんだ」 クロウはもう一度、エナンに首飾りを差し出した。 「形見の様で……」 「形見?ちげーよ!」 首飾りを受け取ったエナンに、クロウは笑って言う。 「俺がどんな姿に生まれ変わっても、その首飾りが発する魔力を頼りにお前の元に辿(たど)り着く為の“目印”だよ」 「なるほど……」 的を得た様な表情で、エナンは呟いた。 「決着は、俺が居なくてもお前なら大丈夫……お前は強い!」 「クロウがそう言うなら、そうなんだろうな……」 「あぁ、俺が保証する!」 クロウは微笑んで、ゆっくり魔法陣に向かって歩き出す。 「クロウ!戦友よ!闘いの無い世界で会おう!」 「あぁ!」 クロウは、後ろ手で手を振りながら、魔法陣の中に姿を消した。
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