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逃走
「ふぁぁ…」
豪快な欠伸と共に、私は体を起こして辺りを見回す。
『あれから何日経った?一週間?』
毎日が忙しすぎて、ライセンスを貰った日から何日経ったか分からない。
『一週間と四日な?』
すかさずクロウが突っ込む。
『そんなに経った?』
『あぁ!てか、早く服着ろ!目のやり場に困る!』
『そろそろ慣れたら?そもそも私は貴方の生まれ変わり…性別と種族が違うだけでしょ?』
『それはそれ!これはこれ!』
『ハイハイ!』
私は下着姿を、わざとクロウに見せ付ける様に立ち上がり(ベッドの前には立ち鏡が置いてある)、ゆっくり着替えてやった。
『ぐぅ…転生したのを悔いる…』
頭の中での会話は、日に日に慣れてくる。今に至っては、クロウが話し掛けてくる予兆さえ分かる。
『言ってなさい…』
『男に生まれ変わりたかった…』
『ハイハイ!性別は選べませんよー』
『ぐぅ…』
クロウを弄るのは、ストレス発散の一つ。反応が毎回違って面白い。
『今日はなにするんだ?』
『決めてない!アカデミーは一日休みだし、久しぶりにギルドマスターに会いたいなぁ…』
『簡単に会えるのか?』
『忙しく無ければ…』
『ふーん』
着替え終わり、貴重品(お金と部屋の鍵)を持って部屋から出て、鍵をしてからアカデミーの外へ。
『今日は嫌に賑やかだな?』
『だね…何かの祝日じゃないかな?』
『何かって、なんだよ?』
『忘れた!』
あまりそういうのに興味はない…とはいえ、建国記念日はちゃんと覚えている。
ギルドに寄る前に、行きつけのカフェへ行き、モーニングを頼んで腹ごしらえ。
それが終わると、ギルドの方へ足を運んだ。
「ギイ…」
ギルドの扉を開き、目の前の受付へ行く。
「あら?ジーナ!今日も依頼受けに来たの?」
受付のお姉さんが、私に声を掛ける。
「えと、先日のジャバウォックの件でギルドマスターに話があるんですが…」
嘘も方便…という訳ではないが、半分は本当の事を言っている。
「あぁ!あの件?ちょっと待って?」
「はい!」
受付のお姉さんは、一度裏に姿を消す。
そして、十…十五分くらい経った頃、裏から戻ってきた。
「今なら大丈夫そうね…場所は分かる?」
「はい!ありがとうございます!」
私は礼をして、奥の部屋の前に立つ。
「コンコン!」
「はい!」
「ジーナです!」
「どうぞ?」
「はい!失礼します!」
言って扉を開け、丁寧に扉を閉める。
「お久しぶりです!」
「えぇ!調子はどう?」
机に向かって何かを書きながら、受け答えをするメルシーさんは…良い!
『変な性癖出てないか?』
『うっさい!黙って!』
『…』
クロウを一蹴し、黙らせた。
「良いですね!」
「そう?それなら良かった!」
書く手を止め、メルシーさんがこちらを見てニッコリ笑う。
「はい!」
「そう言えば、ご両親はお元気?」
「え…はい!元気ですが、父と母をご存知で?」
「えぇ!あのお二人はここのギルドじゃ有名ですからね」
彼女は、クスクス笑いながらこちらを見て言う。
「どう有名なのですか?」
「言っても良いのかな…?」
「え?聞かない方がいい感じですか?」
「お二人の馴れ初めは聞いた?」
「いえ…全く…」
「うーん…私の口から言って良いのかどうか…」
「有名と馴れ初めは関係あるのですか?」
「少なからず有るわね…」
馴れ初めと有名が関係ある?一体どんな?気になる…。
「私から聞いた…と言わないで下さいね?」
「はい!伯爵家に誓って!」
「ふふ…馴れ初めは長くなるので割愛しますが、ここのギルドで有名になったのは…」
「なったのは…?」
「依頼で戦闘中にも関わらず、ライザスさんがミリーナさんにプロポーズしたからですね…」
私は目を点にした。メルシーさんに至っては、今にも吹き出しそうになっている。
戦闘中に…プロポーズ??本気で言ってる???
「あの…本当ですか?」
「えぇ!公爵家に誓って!」
「…」
「因みに、セシルもバイファーさんも知ってますよ?」
校長はさん付け、セシル先生は呼び捨て…イケメンで若そうに見える校長だが、メルシーさんより年上か?
「はぁ…」
「まぁ、お二人が元気なら良かったです」
吹き出しそうになるのを堪え、メルシーさんは言う。
「はい…」
「それはそうと、ただ雑談しに来た訳では無いのでしょう?」
「あ、はい!」
見透かされていた。流石はギルドマスター…。
「あの後、二人の魔族はどうなりました?」
「それが…」
「へ?」
「二人のうち、一人に逃げられました」
「逃げた!?」
「はい」
メルシーさんは、肩を落として言う。
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