少女魔王

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 レンガで舗装(ほそう)された    道からそれると、    路地裏にカイとダンは   アキラを連れて入っていった。  「ここは魚も肉も安くてうまいんだ。  ただし俺らの予算は銅貨三枚。  腹いっぱい食べるために、 裏ワザ見せてやるよ」  ブラックの胸当てとショルダーの  カイは、そういうと、  小汚いのれんをくぐって、  店の中に入った。  女将が迎えると、  メニュー表を丸テーブルの上に置く。 「うまい魚とうまい肉、 どっちがいい、アキラ?」 「阿呆(あほう)、私は腹が空いていない。 好きに食うがいい」  ダンはメニュー表の品に指差して、 「スイーツもあるよ。 食べときなよ。 女の子は好きでしょ?こういうの」 「阿呆(あほう)、 本当に腹は空いていないと いっただろう。 私に気にせず食うがいい」  アキラは黒髪を掻きむしりながら、  周りの屈強な戦士たちを見ている。 「いっとくけど、俺たちの方が上だぜ。」  小声でカイはそう囁く。 「ダンのような魔法使いはいないからな。 俺らは魔法分、得してるわけ」 「いい過ぎだよ、カイ」  女将が丸テーブルに水を置いていく。 「注文は?」 「魚の煮浸しにカツ丼と、 パンを一斤(いっきん)下さい」 女将はアキラを見て、 「可愛い子連れてるじゃないか。 頑張るんだよ、 こんな安い店に連れて来て」 「僕らはこれからです」  女将が笑うと、「まだ若いのに無茶するねえ。」  といって引っ込んでいった。 「裏ワザってね」  ダンはブルーの髪を耳に掛けながら  アキラに話し掛けた。 「パンにこのスパイスと、 塩を振って食べることだよ」 「少しクセはあるけど、 慣れると逆にそれがいいんだ」  丸テーブルの上に  ご自由にどうぞの文字と、  小瓶(こびん)が並んでいる。 「さてさて、アキラ、 その服一組じゃやってけないから、 せめてもう一組、服を買わなきゃな」 「安くて可愛い店もあるから安心して。 着替えは魔法で 水洗いから乾燥まで出来るんだ」  アキラは天井を見上げて  何かを考えこんでいる。  女将が注文の品を持って来るまで  そうしていたが、それをやめると  ブルブル頭を振り出した。 「聞け、阿呆(あほう)。魔族退治を何度した?」 「数えきれないくらいしたよ」  魚の煮浸しをせっせと口に運びながら、  ダンは答えた。  カイはカツ丼を食べ切ると、  食パン一斤(いっきん)に取り掛かった。  手で千切ってから、スパイスと塩を振って食べている。 「うまい、やっぱこれだな」    アキラは眉間に(しわ)を寄せながら、    「魔族が負ける?」と小さく呟く。
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