最終章

61/76
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
 反対に「別れの曲」は、本当は「別れの曲」なんかじゃないといえるかもしれない。  だいたい「別れの曲」なんて題名はショパン本人がつけたものではなく、日本人が勝手にそう呼んでいるだけなのだ。 「奏太、この曲はね、別れをうたった曲じゃないのよ。ショパンが、自分の故国であるポーランドへの愛を表現するために作られたと言われているわ。現にショパンは、彼の弟子のアドルフ・ゲートマンとの練習の時、国を思って泣き叫んだって話も残っているの」  俺は不意に、小さい頃に母さんから聞いたその逸話を聞いた事を思い出した。  そうか、この曲は悲しい歌なんかじゃないんだ。それならば俺は、この曲を弾こう。  今は一人だ。誰も聞いてくれる人はいない。  だけど、それがどうしたというのだ。  離れ離れになったとしても、伊織さんへの思いは変わらない。  愛を、うたおう。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!