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正直、俺はそっちの方がありがたかった。一人暮らしの女性の部屋に入るのは物凄く躊躇われたが、よく考えてみれば、外を出歩いていて、二人でいる光景を知り合いに見られる方が困るのだ。
「あの女は誰なんだ?」と尋ねられて、「彼女だ」と言う勇気は、まだ無かった。
親には「友達の家に泊まる」と言っておいた。今のところ何の連絡も無いから、コロリと騙されてくれているのだろう。
朝になれば、俺は学校に行かなきゃならない。快感に酔いしれた夜など、俺には無かったかのように振るわねばならないのが残念だ。
誘ってきたのは、伊織さんだ。だが、俺は断らなかった。
不安や困惑に心が支配されていたとはいえ、その反面、興味もあったからだ。少しだけ大人になれる。そんな思いも、少なからずあった。
夜明けが来れば、伊織さんも目を覚ますだろう。その時俺は、まともに伊織さんを見られるだろうか。空気がぎこちなくならないだろうか。そして何より、平然として日常を過ごせるだろうか。明けてしまうのが惜しい夜のことを、可惜夜というらしい。俺にとってはまさに今がそうだった。伊織さんと二人だけで過ごすこの時間が、いつまでも続いてほしい。
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