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一目惚れだった。俺は、伊織さんの姿を見るために、欲しい本は全てその書店で買うことにした。だが、そんなことを続けていても、あの時の二人は、まだ男子高校生の客と、香坂さんという名の店員にすぎなかった。
俺が想いを伝えないと、伊織さんには何も分かってもらえない。そんな事は、気付いていた。
初めて伊織さんと会った時からの気持ちは、上っ面だけの興味じゃないと分かった時、偶然学校帰りに伊織さんと鉢合わせした。
「あ」
思わず声を出した俺を、一緒に帰っていた二人の友人が見る。向こうから歩いてきた伊織さんも、俺に気付いて「こんにちは」と言ってきてくれた。
「こ、こんにちは」
友人達が、何メートルか先の電信柱の側で待ってくれているのを確認しながら、俺は挨拶を返した。
「学校の帰り?」
「はい」
接客用語を使わない伊織さんが新鮮だった。
「そうそう。この間注文してくれた本、今日入荷してたわよ。後で店から電話あると思うけど」
「あ、ありがとうございます」
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