第一章

8/21
前へ
/246ページ
次へ
 一目惚れだった。俺は、伊織さんの姿を見るために、欲しい本は全てその書店で買うことにした。だが、そんなことを続けていても、あの時の二人は、まだ男子高校生の客と、香坂さんという名の店員にすぎなかった。  俺が想いを伝えないと、伊織さんには何も分かってもらえない。そんな事は、気付いていた。  初めて伊織さんと会った時からの気持ちは、上っ面だけの興味じゃないと分かった時、偶然学校帰りに伊織さんと鉢合わせした。 「あ」  思わず声を出した俺を、一緒に帰っていた二人の友人が見る。向こうから歩いてきた伊織さんも、俺に気付いて「こんにちは」と言ってきてくれた。 「こ、こんにちは」  友人達が、何メートルか先の電信柱の側で待ってくれているのを確認しながら、俺は挨拶を返した。 「学校の帰り?」 「はい」  接客用語を使わない伊織さんが新鮮だった。 「そうそう。この間注文してくれた本、今日入荷してたわよ。後で店から電話あると思うけど」 「あ、ありがとうございます」
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加