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この時の俺は、伊織さんの書店のかなりの常連客となっていて、伊織さんとは少しだけ世間話をする関係になっていた。気持ち悪い奴だとか思われていないかが心配で、その反面、なにも気にしていないというふりを装うのは結構大変だった。
「あの、また、本について色々聞かせてください」
俺がそう言った後、前方から「もう行くぞー」という声がした。友人達が痺れを切らして、先に帰ろうとしているのだ。
「あ、待てよ」
今良いところなのに、話の途中なのにと慌てていると、伊織さんがいきなり口を開いた。
「ちょっと待って」
そして、伊織さんは自分のハンドバッグから紙とペンを取り出して何かをサラサラ書くと、「後でなら話を聞いてあげられるから」と言って俺にその紙を渡してきた。
そこに書かれていたのは、メールアドレスだった。驚いて紙と伊織さんの顔を交互に見つめる俺に微笑みかけると、伊織さんは立ち去っていった。
呆然とする間もなく、友人に急かされ、俺はその場を後にしたのだけれど、心臓は激しく波打っていた。
「今の人、誰?」
俺が二人に追い付くと、宮田洋平という名の、二人のうち背の低い方の友人が聞いてきた。
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