第十話 これまでのお話は全て伏線である(おおげさ)

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「俺としたことが、すっかり貴様のような小娘に騙されていたようだな……」 「私より、あの王子様の事を信じるんですか?寂しいですね。あんなにニャンニャン言ってくれていたのに……」 ユキが寂しそうに言うのをカイラは鼻で笑う。 「ふん、それは貴様の誘惑魔法だろう。まあ一応、共に数日暮らしたよしみで言い訳だけは聞いてやる」 ユキは、少しだけ考え込み、そして小さな声で話し始めた。 「……例えば、私がかつてあの小国から迫害されて命からがら逃げ出した魔女で、復讐の為にあの小国に疫病の呪いをかけようとしていた、という話を聞いても、カイラ様は私を引き渡しますか?」 ユキの言葉に、カイラは一瞬言葉を失う。 ユキは小さく微笑んだ。 「もう百年近く前になります。まだ私が魔女として国に仕えていた頃、流行り病が国に現れました。私はなんとかしようとしたのですが、私には力及ばずで……。そうしているうちに、流行り病を国に広めたのは私だというデマが流れました。当時の王族が、市民の悲しみをどうにかしようと、私を生贄……スケープゴートにしたのです。私は拷問の上、処刑されることになりました。まあ、処刑の前に逃げ出せたので、こうして生きてますけど」 「今の話は、本当か」 カイラがそうたずね、そしてユキに近づいた時だった。 ユキを拘束していた木の根が一瞬にして枯れた。 「チッ、貴様も相当な魔女らしいな」 カイラは目を合わせないようにしながら舌打ちをする。 ユキは余裕の声を発した。 「まあ、時間をかければそこそこ私だって解呪くらいできますので」 「そうか、さすがだな」 カイラはイライラと、再度目隠しだけでもしようと魔法をかけようとしたが、弾かれてしまった。 「やめましょう。カイラ様は優しいお方だから、今の話を聞いて本気になれないでしょう」 「はは、ナメられたもんだ」 カイラは小さくため息をついた。 ユキは、そんなカイラに対して優しい口調で言った。 「別に、私はカイラ様に危害を加えるつもりはありません。ちょっとお願いがあるだけです。 ……カイラ様の開発した治療薬を、こちらに渡して頂きたいのです」 ユキの言葉に、カイラは少し考え、そしてフッと笑った。 「なるほど、疫病の呪いをかけた後に、すぐに治療薬で治されちゃ困るってわけだ。そこで、俺の治療薬を解析して、薬じゃ治らない疫病の呪いを生み出したい、そういうわけだな?」 「さすがカイラ様、御名答です」 ユキは単純に感心してみせた。 「解呪のプロであるカイラ様、そしてそんなカイラ様の作り出した治療薬は、どんな病でも治すことができると聞いておりました。ですので、まずはそういった治療薬の希望を潰し、疫病による絶望を味あわせたかったのです。そのためにカイラ様のお家にお邪魔させて頂いたのです」 「ふん、誘惑魔法でまどわして、そのスキに治療薬の分析でもしようとしたのか」 「ええ、私はカイラ様を侮っておりました。十分かそこらですぐ戻ってしまうのはさすが大魔法使いですね。せっかくカイラ様自身が風邪を引いて治療薬を使う機会もあったのに、すぐにもとに戻ってしまうので解析まではできない……って困ったものでしたよ」 ユキは、どこか懐かしむような口調でフウとため息をついた。 「それでもあの時は在処と形状が分かっただけでもよしとしました。その後、カイラ様の目を盗んで……おっと」 ユキの目の前で火花が散った。カイラが攻撃し、それを既のところでユキが防いだのだ。 「話の途中です」 ユキが不貞腐れたように言う。カイラはそんなユキの目を見ないようにしながらも、じっと睨みつけた。 「もういい。貴様の目的は分かった」 「じゃあ治療薬、渡してくれるんですね」 ニコニコとユキが微笑んだ時だった。 「なっ!!」 ユキの住み着いていた部屋から、突然何か獣のようなものが飛び出してきた。
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