第十話 これまでのお話は全て伏線である(おおげさ)

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カイラは思いがけない獣の襲撃に、思わず体勢を崩してしまった。 その獣は、魔法により巨大化しており、強い力でカイラを抑え付ける。 「なんだこの畜生……ね、猫!?」 それは、カイラの庭に集まっていた猫達のうちの一匹だった。明らかに目の色が違い、操られている。 「ユキ、貴様、動物は誘惑できないとか言っていなかったか」 カイラは、巨大化した猫に押さえつけられながらも、動揺を悟られないよう努めて冷静にたずねた。 ユキは肩をすくめた。 「まあ動物はちょっと時間がかかるんですよ。ここに来た時から時間をかけてゆっくりと魔力を注ぎ込んでようやく……。たまに部屋で夜な夜な魔力を注ぎ込んで……。いやあ、部屋に監視魔法がかけられていたと聞いたときは、バレるんじゃないかとハラハラしましたけど、まさかの泣き落としが通じるとは思いませんでしたよ」 「……嫌味な言い方だな」  カイラはムスッと言うと、ユキはキラキラした顔で首を振った。 「嫌味なんてとんでもない。私、カイラ様お優しいなって思いましたよ。まあ甘いな、とも思いましたけど」 そう言いながら、ユキはゆっくりとカイラに近寄った。 「まあ、正体がバレてしまってはここにはいられません。早く治療薬の解析をして、あの小国に地獄を見せなければ。 さて、カイラ様、私の目、見ていただけますね?十分もあれば、この家の治療薬を全て奪って立ち去ることは可能ですから」 ユキは、巨大化猫に押さえつけられたままのカイラの顔を両手で掴んだ。 カイラは目をつぶり、ユキを見ないようにしていたようだが、顔を掴まれた途端に、突然大きな声で笑い出した。 「ユキ、貴様、俺とそこそこ長く一緒にいて、何度も誘惑魔法をかけたくせに、俺のことは何も分かっていないようだな」 「な、何を……?」 ユキは今日初めで動揺した声をあげた。 「偉そうに。誘惑にかかると、ただほ甘えん坊になっちゃうくせに」 「ふん、誘惑にかかっていようがいまいが、甘えん坊だろうがなんだろうが、俺は俺だ。ユキ、貴様は俺が、惚れた相手をみすみす逃がすような男だと思っているのか?」 そう偉そうに言い放ったカイラは、目を見開き、自らユキの目を見つめた。 「なっ!?」 思いがけないカイラの行動に、ユキは魔法が狂い、カイラを押さえつけていた猫の魔法は解けてしまった。 ユキは慌ててカイラを警戒した。 しかし、カイラの「ユキちゃぁん……」という甘い声が聞こえ、ユキはホッと息をはいた。 ――大丈夫、あんなのただのハッタリだわ。あんな甘えん坊、恐れるに足りない。 そう思い、ユキは甘えん坊を放置して、急いで魔法薬の保管庫に向かった。
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