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「ユキちゃん、ねえ、ユキちゃん」
ポテポテとユキに着いてきたカイラが、甘えた声でずっとまとわりついてくる。背中にピトッとくっついたり裾を引っ張ったり……恐れるに足りないとか思ったけど、普通にこれは邪魔である。
あと、ちょっと母性本能が顔を出しそうになるのでやめてほしい、とユキは思った。
「ねえユキちゃん、薬持っていっちゃうの?」
甘え声で、しかし困惑したようにたずねるカイラに、ユキは、顔を合わせてニッコリと微笑んでみせた。
「私、このお薬が必要なの。カイラ様、譲ってくれますよね?」
「それはいいけど……」
「そして、少しだけお出かけします。引き止めたりしないで、ね?」
ユキは、精一杯ぶりっ子してみせる。
カイラがそんなユキを見て真っ赤になっているスキに、ユキは治療薬を全て荷物に積み込み、さっさと立ち去ってしまおうとした。
その時だった。
「嫌だ」
そう聞こえたかと思うと、ユキは身体が動かなくなった。
「なっ……これは……トリモチ!!」
身体がベタベタと、ネズミ捕りにかかったように動かない。魔法で取り除こうとしても魔法を弾いてしまい、取り除くことができない。
「ねえユキちゃん、行っちゃやだよ」
カイラは、トリモチにかかっているユキに、泣きそうな顔でそう言った。
ユキは慌てた。しかし冷静を装って急いでカイラに微笑みかけた。
「カイラ様がこんな事したのですね。こんな事されたら、私、カイラ様の事嫌いになっちゃいますよ」
ユキの言葉に、カイラは一切動じなかった。
「ダメだよ。嫌われても、俺はユキちゃんを行かせるわけにはいかない」
「カイラ様!」
「嫌だもん。ユキちゃんが悪い魔女になるのはやだもん」
「……」
「ユキちゃんいい子だもん。ねえ、悪い魔女になったら、絶対いつか退治されるよ。俺はユキちゃんが殺されるのは絶対に嫌だ。ユキちゃんに嫌われても、ユキちゃんを守りたい」
「うるさい!!このベタベタ剥がせよ!!」
ユキはとうとう叫んだ。
「やめてよ!どうせ誘惑魔法で私の事好きになってるだけのくせに偉そうに!」
「ユキちゃん……」
カイラは、トリモチだらけのユキに近づいて、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「俺はね、ユキちゃんが大好き。多分この気持ちは君の魔法の効果で、偽物の気持ちなんだっていうのは分かってる。でもどうしても、君を行かせるわけにはいかない。君が大好きだから。それにね」
カイラはユキの呪われている目をジッと見つめた。
「俺の中の、もうひとりの俺がずっと叫んでるんだよ。『絶対にこの女に、道を外させるなって』」
「は、はぁ!?」
ユキは困惑して油断した瞬間だった。
カイラはユキを抱きしめ、そのまま催眠魔法をかけた。
「ユキ」
最後に名前を呼ばれた気がした。
あれ、ちゃん付けされなかったな、とユキは眠りに落ちる前にそう思った。
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