第十話 これまでのお話は全て伏線である(おおげさ)

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目を覚ました時、ユキはベッドに寝かせられていた。 拘束もされておらず、目隠しもされていなかった。 ユキはゆっくりと起き上がって窓から真っ暗になってしまった外を眺めた。 どれくらい時間が経ったのだろうか。 あのリダとかいう忌々しい王子が来なければ、もう少し余裕を持って準備をして、確実にあの小国を疫病で呪う事が出来たはずだ。こうして大魔法使いと手合わせする必要なんて無かった。 いや、違う。 油断していたのだ。 初めて会った大魔法使いが、思った以上に可愛くて、優しくて。 誰にも心を許さずに百年近く一人でいたユキにとっては、あのカイラの存在こそがまさに誘惑魔法だった。 だからこそ、あんなチャラいキャラで身分を隠して疫病の魔女を探していたリダにも気づかなかったし、治癒薬の解析もダラダラとしてしまった。さっさとやろうとすればできた、いや、カイラの留守のすきに治療薬を盗んで立ち去ることだってできたのに。 「甘いのは私だ」 ユキはボソリと呟いた。 百年、ずっとずっとあの小国に復讐することだけ考えていたのに、この数日その事を忘れたいと思ってしまった自分の意志の弱さに、ユキは泣きたくなった。 「目が覚めたか、この嘘つき小娘が」 いつの間にか、カイラが部屋に入っていた。カイラ自身があの赤い眼鏡がかけており、堂々とユキの事を睨みつけていた。 「あのトリモチな、俺の魔法も弾くから貴様をあれから剥がすのは相当苦労したぞ。こうして綺麗な状態で眠れていたことを感謝するがいい」 偉そうにカイラはそう言い放った。 「なぜ、拘束していないのですか」 「は?」 「ユースト市国に、私の身柄を引き渡すのでしょう?こうしていれば、私は逃げようとしますよ」 ユキは、投げやりになりながらそう言った。 そんなユキに、カイラは大きなため息を吹きかけた。 「貴様は、何を聞いていたんだ。俺はまだ、リダからの依頼は受けていない」 「……でも」 「話を聞いただけだ。話の途中に貴様が割り込んできたからグダグダになったんじゃないか」 「グ、グダグダ……?」 そんな簡単な話?ユキはポカンとしていると、カイラは睨みつけていた表情を少しだけ緩めた。 「まあ事情は聞いてしまったが、それとは関係無しに貴様は俺の依頼者だ。依頼者の解呪が済んでいないのに放り出すなど、俺の沽券に関わる。だから」 カイラはユキのベッドに近づき、ユキの顔をむんずと掴んで宣言するように言い放った。 「『見つめるだけで誘惑魔法をかけてしまう呪い』を俺が解呪するまで、貴様がここを出ていく事は許さない。ずっと俺の側にいろ、いいな」 「いや、あの、この呪いは私自身がかけたので、私の意志一つで簡単に解呪できますけど……」 「なぜ貴様は俺のプロポーズをへし折るような事を言うんだ!」 真っ赤になってプリプリと怒りながら、カイラはドタドタと部屋を出ていった。 「……?あれ?カイラ様今何て言った?」 あまりにも突拍子もない事を言われたため、ユキの頭はその言葉を理解することが出来なかったようだった。
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