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最終話 二度としないのは困る
前回のお話のまとめ〜〜
大魔法使い、プロポーズを小娘にポッキリされる。
前回のお話のまとめ〜終〜〜〜
「なぜ、疫病の魔女を匿うのですか」
ユースト市国にて。リダは訪ねてきたカイラに対してイライラとたずねた。
カイラは偉そうにリダを見下ろしながら言った。
「匿っているわけではない。あれは俺の依頼者だ。依頼者をそちらに引き渡すわけにはいかないのだ。それにさっきも言っただろう。ユースト市国には手を出さないと約束もさせた。それで足りないというのか?」
「信用できません」
リダはそうキッパリと言った。
「こちらのスパイからの情報は信用できるものでした。近々、疫病の魔女が我が国に疫病をもたらすつもりだ、と。そのタイミングで我が国を攻めようとしている国がいくつかあると」
「国盗り合戦のことなど興味はない。ただ、その魔女の事は俺が責任を持つ。信用できないなら」
カイラはリダに向かって、バサリと書類を投げてやった。リダは慌ててその書類を拾いあげた。
「契約書だ。万が一、疫病の魔女がユースト市国に疫病の呪いをかけたなら、無償で国民全員分の治癒薬を提供しよう。この俺の治癒薬の評価は知っているな?」
「も、もちろん!ほとんどの怪我・病を治す、かなりの高級魔法薬……。無償で?国民全員分?」
リダは興奮したように聞き返した。
カイラはフン、と鼻を鳴らした。
「サンプルも100ダースほど置いていく。ああ、ちなみに女子供でも我慢すりゃあ飲めるレベルに最近改良したばかりだからな」
大量の治癒薬が目の前に現れると、リダはポカンとしてしまった。
「これで、信用できるな?」
「ここまでしていただいたなら、信用しないわけにはいかないでしょう」
リダは神妙に頷いた。
※※※※
「本当に、許していただいたのですか?」
ユキは、ユースト市国から戻ったカイラを出迎えながらそうたずねた。出迎える前にきちんと眼鏡をかけて、カイラを不用意に誘惑しないようにしっかり気をつけている。
「正直、結局駄目で連れて行かれる覚悟をしていました」
「貴様は本当に俺をみくびっているようだな」
カイラは呆れたように言った。
「この俺が大丈夫だと言えば大丈夫に決まっているだろう。
ま、改良した治癒薬の治験も兼ねているがな」
楽しそうにカイラは治癒薬の整理を始める。
そんなカイラの後ろ姿に、ユキはそっと身体を寄せた。
「な、何だ急に!無防備な背中を狙うな!」
「カイラ様、私、本当にここにいてもいいのですか」
「は?」
「私、カイラ様に酷い事しました」
ユキはカイラの背中に顔を埋めた。
カイラは小さく息を吐くと、いつもの偉そうな口調ではなく、優しい口調で小さな声で言った。
「酷い事なんかしていない。俺は貴様が来てから毎日楽しかった。
解呪の仕事をしていれば、妬み恨み嫉みの話ばかり聞く。そんなもの面倒くさいから俺は人にあまり深く長く関わらないようにしてきた。でも貴様が来て、解呪がすぐできないせいで長く関わってしまって……。楽しくなってしまったんだ。
あと、あんな甘えをちゃんと受け止めてくれたのも嬉しかった、と、俺の中の変態が言っている」
「変態じゃないですよ!子猫ちゃんみたいに可愛い……」
「それ以上言うな」
カイラはムスッとユキの言葉を遮る。
ユキがカイラの背中に顔を埋めたまま、少しだけ静かな時間が通り過ぎた。
カイラは、振り返り、ユキの肩を掴んだ。
「ユキ」
真剣な表情で、下を向いたままのユキを呼ぶ。
「俺は器がでかいからな。貴様のその、多分まだ燻ってる過去の恨みも含めて面倒をみてやるつもりだ。だからここにいても、いい」
「カイラ様……」
ユキは顔を上げた。
その途端、お約束のように眼鏡が外れ、思いっきりユキと目のあったカイラはガクッと頭を垂れた。
「ああ、ごめんなさい!」
ユキは慌てて眼鏡をかけ直してカイラを支えた。
しかし、すでにカイラは、いつもの甘えん坊モードになってしまっていた。
「ユキちゃん♡可愛いユキちゃん♡だっこもっとして。えへへー、これからずーっと一緒にいようねぇ。にゃんにゃん♡大好きだよ」
あと十分くらいすれば、我に返った器のでかいはずのカイラが、今の件でまたプリプリするだろう。
ユキ自身で誘惑魔法の呪いを解いてもいいのだ。しかしそうすると、素直になれないカイラがユキを手元に置く言い訳を、奪ってしまうことになる。
――それはこっちも困るし。このカイラ様は可愛いし、もう少しだけこのままで。
ユキはにゃんにゃんと甘えるカイラの唇に、そっと口づけをした。
……
………
…………
「いいか、本来俺はキスされたくらいで鼻血を出して倒れるようなガキじゃないんだ」
「はい。わかっています」
「これは事故だ」
「はい。わかっています。もう二度とカイラ様にキスするなどという無礼はしません」
「馬鹿か貴様は!そういうことじゃない!」
END
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