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第三話 しっかりと観察しなくては
前回のお話のまとめ〜〜
カイラはツンデレになった。
前回のお話のまとめ〜終〜〜〜
さて、ユキがカイラの元に住み込み始めて1週間ほど経過した。
ある日、カイラは若い男の人を連れてきた。
「やはり、誘惑魔法にかかる瞬間、かかっている様子などをしっかりと観察しなくてはいけないと思ってな。その辺を歩いていた旅人を、食事を餌に捕獲してきた」
「ういっす〜☆食事を餌に捕獲されてきたっす〜☆」
ずいぶんとチャラい旅人だ。
ユキはポカンとしてその旅人を見つめた。
「いやぁ、なんかわかんないっすけど、超お腹空いて倒れてたら、この魔法使いさんが現れて、ごちそうを用意してくれるって言うじゃないっすか。こりゃもう神様みたいですよねー」
旅人はケラケラと笑う。
カイラを神様だと言う旅人の様子に、ユキは騙しているような気分になって申し訳なくなってきた。
「あのぉ、カイラ様。誘惑魔法のかかる瞬間とかかかる様子なら、前にカイラ様がかかった時の様子が記録魔法で残ってるんじゃ……」
「ぁ゙ぁ゙?」
「な、何でもありません」
殺意に満ちたカイラの顔に、ユキは慌てて言葉を引っ込めた。
カイラはフン、と鼻を鳴らすと旅人に向かい合った。
「さて旅人よ。食事の前に、少しこの娘の目を見てくれるか」
「え?この子ですか?いや照れちゃいますね、女の子の目を見るとか……」
そうヘラヘラ言いながらユキの目を見た旅人は、すぐにフッと一瞬ふらついた。
そして、次の瞬間にはさっきのヘラヘラした顔が消えていた。
旅人の顔を見て、ユキは身体を強張らせた。そんなユキを見て、カイラはキッパリと言った。
「心配するな。あの旅人が貴様を無理やり手籠めにするようなことがあれば、しっかりと潰してやるから」
「つ、潰すって何を……」
ユキがそうカイラにたずねた時だった。
「ああ、美しいお方……」
旅人が、おもむろにユキの近くに寄り、膝をついた。
「あなたを見ていると胸がはち切れそうです。どうか私と共に来ていただけないでしょうか」
「は、はえ?」
ユキはさっきまでチャラかった旅人の豹変ぶりにキョトンとした。
旅人は、そっと優しくユキの手を取った。
「無理にとは申しません。ただ、私はあなたに心を奪われてしまったので、あなたを振り向かせる努力をすることだけはお許しいただけないでしようか」
そう言って、旅人は、そっとユキの手の甲に口づけをしたのだ。
ユキは真っ赤になって頭から煙が出そうになった。
「そ、そ、そ、そ、その……」
ユキが何かを言おうとした時だった。
ビシャン!と大きな音が鳴り響き、旅人は冷たい水でびしょ濡れになっていた。
「だ、大丈夫ですか!!」
ユキは慌てて旅人を支えた。
「冷たい水を掛けると元に戻るんだろう。元に戻してやったんだ」
どうやら、カイラが魔法で水を出したらしい。
「ふん、気に食わない。キザな事しやがって。ユキ、貴様も貴様でデレデレしやがって」
カイラは何故か機嫌が悪くなっている
ユキは真っ赤なままだ。まだドキドキしている。
「誘惑で、あんな感じになる方、初めてです。あまり無いパターンでした。あ、勿論カイラ様のパターンもそうそう無いですけど」
「余計なことは言わなくていい」
カイラはケッと吐き捨てるように言った。
その時、旅人がうーん、と呻きながら起き上がった。
「うー……クシュンっ。うわ、さむっ!!え?俺何で濡れてんの?」
旅人は、びしょ濡れの自分を見てあ然としている。
「風呂を貸してやるから入れ。その後で食事をさせる」
それだけ言うと、カイラはその場を立ち去った。
ユキはすぐに旅人を風呂に案内した。
「あの人も、わざとチャラいふりしてるんだろうな。やっぱり、本当はカイラ様が怖かったのに、無理して明るく振る舞ってたのかも」
ユキはそう呟いた。
人には色々あるんだな。
結局、風呂に入り、たっぷりとカイラからご馳走されて、服も乾かしてもらい、旅人は去っていった。
「カイラ様、しっかり観察できましたか?記録魔法もやっていらっしゃったようですが」
「……まあな。一応ちゃんと魔法にかかった時の身体の変化を確認した。それにしても」
カイラはユキを睨んだ。
「貴様は何なんだ。誘惑魔法の呪いで困っていると言いながらも、あの旅人にキスされてずいぶんと嬉しそうだったじゃないか」
「そ、それは」
あんなに紳士的にされると、ユキだってさすがに年頃の娘だし、やっぱりときめいてしまう。
むしろ、なぜカイラがそんなに不機嫌なんだろうと考えた結果、ユキはハッと思いついて言った。
「だ、大丈夫です!カイラ様に甘えられた時だって嬉しかったですよ!!」
「別にあの旅人にに嫉妬したわけではない」
カイラは冷たい目でそう言うと、自分の部屋へ戻っていった。
嫉妬じゃなかったのか、恥ずかしい。とユキは少し赤くなった。
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