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第七話 誘惑魔法の呪いは、動物には効きませんよ
前回のお話のまとめ〜〜
大魔法使い、女子に泣かれるのは苦手。
前回のお話のまとめ〜終〜〜〜
カイラの庭にはよく野良猫がやってくる。
「餌をやったら奴らはつけ上がる。絶対に餌付なんかするんじゃないぞ」
カイラは以前、強めにそう注意していたが、実はコッソリ餌をやっていたのをユキは目撃していたし、たまに洗ってやったり、怪我を治してやっているのも見た。
そんなほぼ飼い猫状態の野良猫たちはとても可愛くて、ユキも暇さえあればよく戯れていた。
その日もユキは野良猫たちと遊んでいた。
ゴロゴロと喉を鳴らしてお腹を見せてくる野良猫たちを撫でていると、
「おい」
と不機嫌そうな声がした。
「カイラ様。お仕事は終わりましたか。今お茶でも淹れましょうか」
ユキが立ち上がろうとすると、カイラは不機嫌そうに、いらない、と首を振った。
「それより、貴様の誘惑魔法は、畜生達にも効くのだな」
ユキは首を傾げると、カイラはユキの足に身体をこすりつけて甘えている猫を指さした。
「その野良猫共は全く懐かない。すぐに威嚇してくる。なのに貴様にはそうやって甘えているから誘惑魔法の効果なのだろう」
「え?いや、私の誘惑魔法の呪いは、動物には効きませんよ?野生の小鳥には逃げられますし、熊に会えば襲われますし。っていうかほら、私今眼鏡かけてますし」
「でも、現にそうやって猫共が甘えているじゃないか」
「カイラ様みたいに甘えてきますよね」
「あぁ?」
ユキは余計な事を言って、カイラに睨まれた。
ユキは慌てて話をもとに戻す。
「えっとこの子達、とても人懐っこい方だと思いますよ。カイラ様がお世話してくださってるおかげだと思います」
「……別に俺は世話なんかしていない」
餌をやっているのをバレていないと思っているのか、カイラはそっぽを向いた。
「……まあ、例えば俺が世話してやっているのだとして、ならなぜ、世話をしている俺に懐かずに貴様に懐くんだ。どう考えても貴様の誘惑がかかっているに違いない」
――なるほど、頑固だな。
ユキは一人頷くと、カイラの腕を掴んで自分の横に座らせた。そして、眼鏡を外した。
「おい、貴様こちらを向くなよ」
「はい。わかっています」
そう言いながら、ユキは一匹の猫をじっと見つめた。
「ほら、私が眼鏡をつけていても外しても、猫ちゃんは全く変わりませんよ」
「……そうか」
カイラはムスッとした声のままだ。ユキは苦笑した。
「ムスッとして睨んでたら猫ちゃん怖がりますよ。ほら、ニッコリ、敵意はありませんよーって感じで猫ちゃんに触ってみ……」
「ユキちゃん」
「え?」
突然、甘ったるい声がして、ユキは驚いた。
「え?私全然カイラ様を見てないのに……?」
「ユキちゃん、ユキちゃん」
甘え声でユキにすり寄るカイラ。猫が増えた、とユキは心の中で思った。
「君たちもユキちゃんが好きなの?でも俺のほうがもっと好きだもんねー。ねーユキちゃん♡」
猫達に謎のマウントをとるカイラに、ユキは何だか恥ずかしくなって目をそらした。
猫達は、急に人が変わったかのようなカイラに、少しだけ不審そうな顔を向けたが、彼に敵意が無いとみなしたのか、カイラにも甘えるようにニャーニャーと近寄って行った。
「やだなぁ、くすぐったいよぉ。ねえユキちゃん、みんな可愛いねぇ。ニャンニャン♡ま、勿論ユキちゃんが一番可愛いけど♡」
――猫ちゃんが猫ちゃんに甘えてる。かわいい。
通常時のカイラが聞いたら激怒されそうなことを思いながら、とりあえずユキはこの場を楽しむことにしたのだった。
――
―――――
―――――――
「猫共の瞳だ。くそ、俺としたことが抜かった。猫の瞳越しに貴様と目が合ってしまったんだ」
悔しそうに呻くカイラは、全身についた猫の毛を魔法で丁寧に取り払っていた。
「鏡越しなどは気を付けていたんだが。まさかだったな。それも、気づいたらあの野良猫共の毛で服が汚れているし」
「楽しそうでしたよ」
ユキが口を挟むと、カイラはギロリと睨んできた。
ユキは肩を竦めながらも、小さい声で続けた。
「猫ちゃんも、あんまり怖い顔で近づいたら、怯えちゃうので。猫ちゃんに懐いてもらいたいなら、さっきみたいに、可愛くニャンニャン言えばきっと……」
「懐いてほしいわけではない。あと、俺はニャンニャンなんて言ってない」
「え、あ、いやカイラ様は覚えていないかもしれませんが確かに……」
「言ってない!!」
プリプリと怒りながら、カイラは猫の毛がついたまま立ち去って行ってしまった。
「可愛かったのになぁ」
ユキは残念そうに呟いた。
しかし後日ユキは、庭でこっそりと怖い顔でニャンニャン言いながら野良猫に餌をやっているカイラを目撃した。
怖い顔のままなので、やっぱり野良猫たちはカイラを威嚇していた。
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