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第九話 俺はせいせいするがな
前回のお話のまとめ〜〜
薬、マジで死ぬほどマズイ。
前回のお話のまとめ〜終〜〜〜
その日、ユキは謎の液体を飲まされ、謎の魔法陣の真ん中に座らされていた。
カイラの開発した解呪を試しているのだ。
カイラは真剣な顔でユキに魔法をかけている。「かなり神経を使う魔法だから終わるまで声をかけるな」と言われているので、大人しく黙って待っていた。
かれこれ1時間ほどそうしていただろうか。
突然、ユキの体の心臓が激しくなり、そして身体から何やら抜けていく感覚を感じた。
「いった!剥がれた!」
カイラは叫んだ。
「ユキ!出来たぞ!呪いの剥がれる感触があった!解呪できたはずだ!」
カイラはそう言って、魔法陣の中で足をしびれているユキにドヤ顔してみせた。
「ほら、眼鏡を外して俺を見てみろ」
「え、大丈夫ですか?」
「俺を誰だと思っている。解呪のプロ、大魔法使いカイラだぞ」
カイラがそう胸を張るので、ユキはおそるおそる眼鏡を外した。そしてカイラの目を見つめた。
一、二、三秒……。
効かない!!
「誘惑魔法がかからない!ほ、本当に、本当に解呪して頂けたんですか!」
ユキは驚いて自分の顔を覆った。
「信じられてない!凄い!」
「ま、もしかしたら魔力の強い俺だけに効かないだけかもしれんがな。どれ、またどこかで旅人をひっ捕らえてきて試してみるか?」
カイラも上機嫌で魔法陣を片付け始めている。
ユキはふと、カイラを見つめながらボソリと呟いた。
「これで、カイラ様と、お別れになるんですね……」
ユキの言葉に、カイラは一瞬手を止めた。
そして、チラリとユキの方をみると、また顔をそらして言った。
「ま、もうここにいる必要ないからな。さっさと出ていって、平穏に暮らすがいい」
「少しだけ、寂しいですね」
ユキがそう言うと、カイラは鼻で笑った。
「はっ。そうか、寂しいか。俺はせいせいするがな」
すっかりと魔法陣を片付けてしまうと、カイラはユキと目を合わせずにいった。
「明日にでも、その辺から旅人一人ひっ捕らえてくる。それでちゃんと解呪できているかの最終チェックが終わったら、すぐに出ていくがいい」
カイラの言葉に、ユキは黙って頷くしかなかった。
次の日、ユキは荷物を抱えて部屋から出てきた。
カイラは先に朝食を終えていた。
「ゆっくり食べてろ。俺は今から旅人一人ひっ捕らえてくる」
「わかりました……」
ユキは小さく頷いた。
「本当に、もうお別れが近いんですね」
そう言って、ユキが出掛けようとするカイラの目をみつめた時だった。
カイラがふらりと倒れそうになった。
「カイラ様!?」
ユキは慌ててカイラを支えた。
「ユキちゃぁん、やっぱり行っちゃ嫌だよぉ。ずっとここにいてよぉ」
「カ、カイラ様!?」
ユキは慌てた。
「え?何でまた誘惑が!?解呪されたはず……」
「寂しいよ。ずっと一人でいたから、ユキと一緒にいて楽しかったもん。ねえ、ずっといてよぉ」
「え、えっと……?あの」
「あ、そうだ!結婚しよう!ね?そしたら一緒にずっといてくれる!?」
「け、結婚!?」
誘惑が再度かかってしまったことの問題が解決していないのに、さらに衝撃的な事を言われて、ユキも混乱してしまった。
「け、け、結婚は、その……カイラ様が冷静な時にゆっくり考えて頂いて……」
「ゆっくり考えてたらユキちゃん行っちゃうもんー」
ダダをこねるカイラを、すぐに出ていったりしないから、とひたすらユキはなだめ続けるのだった。
※※※※
「なぜだ」
数分後、我に返ったカイラは頭を抱えていた。
「昨日は確実に解呪できたはずだ。なぜ呪いが戻っている」
「なぜでしょうか……」
今度はちゃんと眼鏡をかけたユキも、首を傾げた。
カイラは少しユキを睨んだ。
「そういえば昨日、寂しくなるとか言っていたな。お前が寂しいだとか解呪されたくないとか思っていたら、その強い想いに引きづられて呪いも戻ってきてしまうという研究結果も聞いたことがある」
「え。そうなんですか」
ユキは真っ赤になった。
カイラは、険しい顔になった。
「いいか。そんな馬鹿な考えは捨てろ。さっさと呪いを解くことだけを考えろ。また一から解呪をしなくてはいけないんだぞ」
「すみません」
ユキは素直に謝った。
カイラはユキの支度した荷物を、再度魔法で部屋に乱暴にもどす。
「カイラ様」
「何だ」
「カイラ様も、私がいなくなったら寂しいですか?さっきそう言ってましたけど」
ユキは、眼鏡越しにカイラを見つめる。
カイラは、ハッと鼻で笑った。
「それは、誘惑魔法のせいだろう。俺は全く寂しくない。せいせいする」
「そうですか」
ユキはその答えを聞くと、悲しげに目をそらした。
「寂しくないが、別に貴様がここいにても、邪魔ではない」
「いなくなったらせいせいするのに?」
「邪魔とせいせいするは違うだろう」
カイラはそう言い放つと、「解呪のやり直しには……」とぶつぶつつぶやきながら、自分の部屋に戻っていった。
「困っちゃうなぁ。カイラ様がそんなんだと……」
ユキは顔を真っ赤にしながら、乱暴に戻された部屋の荷物を近づけ始めるのだった。
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