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 体調を崩して数日間学校を休んだあかりは、頬がこけて目が少々(うつ)ろだった。  校門前で車から降りると、由梨の元にやって来た。 「ちょっと、頭痛が(ひど)くてね ───」  こめかみを親指で押さえ、顔を(しか)めた。 「あかりが病気なんて、珍しいね」  スポーツ万能で、体力があるあかりはあまり風邪を引いたこともなかった。  だが、時々視界が歪み、ブレて見えるほどの頭痛に見舞われ、数日間布団にうずくまり、食事もあまり摂っていなかった。 「ねえ、由梨。  おかしなこと言っていいかな」  暗い眼をしてあかりは、見上げるように由梨の口元に視線を合わせた。 「何、隠し事なんかしないでよね」  いつもと違うムードに戸惑いながらも、努めて静かに答えた。 「私のこと、心配してくれてるのが良く分かるわ。  というよりも、さっきから『どうしたんだろう』とか『大丈夫かな』って頭の中に響いてくるのよ。  これって、口に出して言ってないよね」  由梨は目を見開いた。  視線が揺れ、何度もあかりの言葉を心の中で反芻(はんすう)して、思考が再開するまでに時間がかかった。  ゆっくりと視線を落とし、そして静かに口を開いた。 「それって、私の心が読めるってことかな」  あかりが指摘した言葉は、口から出たものではなかった。  様子がおかしい彼女を見て、何度も脳の中で繰り返した言葉をあかりが察したのかも知れない。  だが只事(ただごと)ではない雰囲気を感じ取った由梨は、笑いごとにはできないのだと直観していた。 「頭痛が段々収まってきてから、たくさんの言葉が頭に染み込んでくる感じがして、今度は気分が悪くなってきていたの」  まだ治ってなどいなかったのだが、この異常事態を誰かに聞いてもらいたくてやってきたのだった。  あかりの心情を察した由梨は、欠席届を提出するとあかりの車に乗り込み走り出したのだった。
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