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 車窓の景色が灰色の影を落とし、ビルの隙間の光が不規則なリズムを刻む。  吐き気をもよおした あかりは、椅子にもたれてグッタリとしていた。 「どうしよう、病院に行く」  由梨の問いかけに、小さく(うめ)いたあかりが、弾かれたように のけ反った。 「ぐっ」  カッと見開かれた双眸(そうぼう)が、光を失っていった。 「あかり」  薄れていく意識の中で、彼女の涙声が小さく響いていた。  薄暗く、窓には鉄格子が()め込まれた部屋には、陰気な空気が立ち込めている。  3人の男たちは、あかりと同い年くらいの少年、20代の青年、そして老人だった。 「(じい)さん、この女も(ぼつ)なのか」 「ワシに聞くなよ、少年」 「とにかく、生きてはいるようだが体調が悪そうだ」  反対側の壁にもたれて、ベッドで寝息を立てるあかりを値踏みするように見ていた少年が「あっ」と声を上げた。  目を硬くつぶり、眉間に縦皺(たてじわ)を作った彼女が呻き声を()らした。 「お目覚めかな」  老人がすっと立ち上がり、彼女の方へと近づいていく。  両手首と足首に、ステンレスの輪が()められて、首にも金属製の機械が嵌っている。  薄目を開けた彼女は、近づいてくる老人に気がついた。  随分長く眠っていたようだ。  全身がだるくて力が入らない。 「気がついたようだのう。  大丈夫、とりあえず危害を加えられることはない」  ブレザーから(のぞ)く袖元と、足には濃い(あざ)があった。  右手を床に突いて半身を起こした彼女は、壁にもたれている少年と、青年に視線を移した。 「ちょっと、人の足見て変なこと考えないでよ」  2人は跳ね起きるように立ち上がると、床に視線を落として頭を()いた。  一瞬目を丸くした老人は、口角を上げて微笑んだ。 「ほう、お嬢さんは、テレパシーかな」 「こりゃあ、いやらしいこと考えられなくなったな」  少年が言うと、肩をゆすって皆が笑った。
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