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 看守は、無言で時々食べ物を運んで来て、ドアの下の小さな戸から差し入れる以外は何もして来なかった。  得体の知れない能力を秘めた4人を恐れているのかも知れない。  監視カメラがどこかにあるのかも知れないから、残りの3人が死角を作り、翔太の年動力で金属の輪を壊した。  いかに力を抑えられたとは言え、翔太のパワーは凄まじく、輪を一瞬で粉々にしてしまった。  そして、慎ジイの能力である「物質を生成する力」で新しい輪を作り、密かに付け替えていた。  外に人の気配がした。  静寂を破って、小さな靴音がしてドアの前で男が止まった。  ドアの下にある、横長の小さな戸が少しずつ開いていく。  その時、爆発音とともにドアが外側に開き、看守は反対側の壁に背中を打ち付けて倒れた。  飛び出したあかりは、壁に貼り付いた彼の鳩尾(みぞおち)膝蹴(ひざげ)りをめり込ませ、頭を両手で押さえて横に倒す。  口笛を鳴らして翔太が言った。 「やるねえ」  学校の課外活動で、空手を習っていた あかりは、テレパシーで相手が気絶したことを確認してから的確に攻撃をヒットさせていた。  騒ぎを聞きつけて看守が2人拳銃を構えて向かってきた。  咄嗟(とっさ)に身をひるがえして部屋に飛び込んだあかりは、2人から見えない角度から(すき)(うかが)った。 「ここは、お任せを」  手で制して、ゆっくりと廊下へ出たのは勝である。  無人の野を行くかのごとく、ゆっくりと歩を進めて、2人の看守の肩に手を置いた。 「君たち、こんなところで油を売っていると、給料を差っ引くぞ。  持ち場へ戻りたまえ」  ポンと肩を叩き、鋭い視線を向けてからは目尻を下げてニヤリと笑っているのだった。 「どうだい、便利だろう。  彼らは私を上司だと思い込んだのだ。  これも君と同じテレパシーの一種だ。  『過去を書き換える能力』と呼んでいる」  念のため慎ジイがドアの破損部分を再生して、元通りにした。 「4人では目立つ。  これより2手に分かれて情報収集を行う。  くれぐれも、無理はするな」  慎ジイの優しい笑顔に、月明りが影を差していた。  これから何が待ち構えているのかわからない。  突然授かった力を、何に役立てればいいのかも分からない。  だが今は、降りかかる火の粉を払う以外に道はなかった。
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