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 夜11時、国彦の「夢食堂」が閉店時間を迎えた。  客は夕飯時に増えたものの、酒を注文して居座る者もなく片付けは終わっていた。 「おつかれさん。  手伝ってくれて助かったよ」  山で鍛えたという、筋骨たくましい身体を椅子に沈めて一息つく。 「国さん、俺たちのせいで敵に襲われたんじゃ ───」  大きな右手をポンと翔太の頭に乗せていった。 「俺の心配するほど、お前も強くなってくれたら話を聞いてやろう。  それで、これからどうするつもりだ」 「政府側の動きが分かるまでは、目立つことは避けたいと思っています。  できれば仲間を増やして、戦いになったときに備えておきたいです。  これは勝さんの意見ですけど」  (あご)に手を当てて思案顔になった国彦は、しばらく唸った後あかりを手招きで呼んだ。 「今は政府も超能力に戸惑っていて膠着(こうちゃく)しているが、いずれは攻撃してくるだろう。  いかに超人的な能力を持っていても、真正面から近代兵器を相手にはできない」  翔太はコクリと(うなづ)いた。 「でも、心に働きかけて、考えを変えることができれば共存の道が開けるのではないかしら」  髪を掻き上げ、瞳には意思の輝きを(たた)えていた。  あかりには超能力者を没と呼び差別しようとする人間の(さが)の先にあるものが見えていた。 「うむ。  我々は普通の人間と変わらない幸せを追及して生きるべきだ。  能力に(おぼ)れ、己を見失ってはならない」  その時、食堂のBGM代わりにかけている、インターネットラジオに臨時ニュースが割り込んだ。  突然、謎の男がさいたま新都心で暴れ始めた、というものだった。  不可解なことに、警察や自衛隊が出動したものの、同士討ちを始めて多数の死傷者がでているという。  遠くで爆発音と地鳴りが(とどろ)いた。 「近いぞ、国さん、どうする」  翔太はすでに戸口に向かって走り出していた。 「待って」  鋭い声で、あかりが呼び止めると、 「まさか、止めるんじゃないだろうな。  仲間が攻撃されているんだぞ」 「違うわ、冷静に考えてみて。  同士打ちって、勝さんの、能力じゃ、ないの、かしら ───」  最後は上ずって声がかすれ、唇を震わせて、目に涙を浮かべている顔が、翔太の毒気を抜いてしまったのだった。
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