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 倫には晴馬がなにを考えているのか、分からなかった。  この男の中で燃え盛っているのは怒りなのか、あるいは。 「――倫、さん」  体の奥底から絞り出すように名を呼び、晴馬は倫に口づけた。同時に腰を突き出し、猛ったペニスをねじ込む。  すぐには平らげない。亀頭で膣道の手前を引っ掻くように往復する。 「最初は、浅く……でしたよね?」 「あっ、あん……っ!」  十分気持ち良さそうにしていた倫の腰が、やがてゆるゆると前後に動く。 「ふふ、でもすぐに物足りなくなってくる……」 「……っ」  恥ずかしいけれどそのとおり。  もっともっと深くに欲しい――。倫の肉壁は勝手に蠕動を始め、晴馬の陰茎を奥へと誘おうとする。 「そんなにきゅうきゅう締めて……可愛いな。焦らないでも、ちゃんとあげますから……」  晴馬は肘当てに置いた倫の両足首を掴み、高く掲げた。倫の足をV字の形にして、その上に伸し掛かるようにして侵入を果たす。 「んぁ……っ!」  押し潰されたような、はしたない声が漏れてしまうが、倫にはなにもできない。腕は背中でひとまとめにされたままだし、足は晴馬に押さえられたままだし。そんな不自由な状態で犯されることに、かえってマゾヒスティックな悦びを覚えてしまう。  雄に力づくで堕とされる。だが「しょうがない、私は悪くない」という言い訳も立つわけだから、今は頭をからっぽにして、ただ淫楽に耽っても許されるだろう――。  晴馬の豹変っぷりに戸惑いつつも、一方ではどこか楽しんでいる。  自分は狡猾だと自己嫌悪してしまうが、今はその気持ちに蓋をして、倫はずっと前から好意を抱いていた晴馬との情事に、没頭することにする。 「気持ちいい? 倫さん」 「んっ、あ、あ……!」  もはや倫はまともに喋ることができない。  内部を擦り、突く、硬い感触。鋼のようなそれを淫らな蜜で濡れそぼった壁で囲い、存分に味わう。 「きもち、い……っ! いい、よぉ……っ!」 「俺のチンポ、そんなにいい?」 「いい、いい……っ! すご、く……っ!」  倫は舌を突き出しながら、掠れた声で叫んだ。見開かれた瞳は愉楽を追うだけで、なにも映ってはいない。  獲物の中心に楔を打ち込み、支配した。その様を晴馬は満足気に見下ろし、唇の端を上げた。 「あなたにそう言われると、すごく……自信が持てるなあ……。ずっと、不安だったから……」 「……?」  今まで落ち着き払っていた晴馬の表情に影がかかり、倫は不思議な気持ちになる。  晴馬のこんな顔は、見たことがなかった。  どこか幼く、淋しげで。なんだか慰めてあげたくなる。 「日比野くんは……すごくデキる人、でしょ……? なんで……?」  ――どうして悲しそうに笑うのか。  皆の先頭に立ち、道を切り開く。そんな強く優れた青年とは思えぬほど、晴馬は儚く微笑んでいる。  なんとかしてあげたくて、晴馬の頬に手を伸ばしながら、倫はおずおず告白した。 「ずっと、好き……だった、の」  消え入りそうな声で囁いたそれは、だがきちんと意中の相手に届いたようだ。  晴馬は頬に置かれた倫の手を握り、真顔になった。 「俺も……! 俺も、倫さん。ずっと、ずっとずっとずっと、あなたのことが……!」 「うっ、あ……! つよ、い、よぉ……っ!」  晴馬の動きが早く、激化する。情熱と勢いのままの、彼の乱暴な振る舞いを受け止め、椅子の上でガクガク揺さぶられながら、倫は甘い悲鳴を上げた。  先端を倫の果てに押し当て、肉の大樹はむくむくと肥え太り、爆発のときを待っている。 「倫、さん……! イク、出す……! 一緒に……!」 「出して……! 日比野くん、好き! 好きっ!」  そのあとはもう普通の、どこにでもいる愚かな恋人たちの如く。  好きだとか愛しているだとか、可愛いとかかっこいいとか、世迷言をのたまいながら――二人は同時に頂きへと上り詰めた。 「はぁっ……」 「あ……」  しばらくそのままで結合の余韻に浸ってから、やがて名残惜しそうに晴馬が離れていくと、倫の膣口からはコポッと白濁の体液がこぼれ落ちる。――ただでさえ汚れたオフィスチェアが、更にひどい有り様になってしまった。 「あ、や、わあっ……! 早く拭かないと! て、手を! 早く解いて!」 「あ、はい」  真っ赤になって慌てている倫の要請を、晴馬は素直に聞き入れた。 「あの……。覚えててくれたんですか?」  倫の後ろに回り、手錠を解きながら、晴馬はなぜかウキウキとはずんだ様子で尋ねた。 「え?」  なんのことか分からない。  倫が聞き返すと、晴馬は途端ムッとした顔になり、深い溜め息をついた。 「やっぱりね。本当にまるっと忘れちゃったのかよ。復讐のし甲斐、ねーなー」 「え? え?」  晴れて腕が自由になると、倫は晴馬を振り返った。  晴馬は不機嫌そうに、口をへの字に曲げている。  ――加害者のくせに、その態度はどうなのか。  だが倫にとっては、怒りよりも困惑が勝っていた。
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