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 同じ学校の、同じ年頃の少年たちに、暴力を振るわれていること。  それに屈していること。  思春期の男子にとってこれは、相当プライドを傷つけられる事態なのだろう。 「……………………こんなのは」  少年は膝を抱え込み、ブツブツとつぶやき出した。 「こんなのはあと少しだ……。次の春までの我慢なんだ……。俺はT大に入る。そうすれば、あいつらだってもう手を出せない……。俺はT大に入って、一流の会社に入って……あいつらを見返してやる。もう少しなんだ……」  虚ろな顔で繰り返している「もう少し」を、この少年は果たして耐えられるのだろうか。  もう限界が近いように見えるのだが……。 「あの、あのさ、一人で抱えてないで、親御さんや先生に相談してみたら?」  なんともありきたりなアドバイスだと我ながら思いながら、倫は少年を傷つけないよう、できるだけ穏やかな声色で提案した。 「友達に言ってみるとか……」  すると少年はフンと鼻で笑った。 「友達なんて、一体なにになるんです?」 「え? いやいや、大事でしょ、友達は」  たじろぐ倫を、少年は挑むような目で見返した。 「そういう時代じゃないんですよ、おねえさん。友達なんて言ったって、結局は利用するか、されるかだけの関係なんだから。マウントの道具でしかない」  少年は随分上からの目線で、倫に物申している。  ――そーいう態度だから、いじめられるんじゃないのー?  そんな台詞が喉元まで出かかったが、倫はなんとか堪えた。すっかり打ちのめされている少年にそれを言うのは、あまりにも酷だろう。   「……あなたは働いているんですか?」  急に話題を変えて、少年はちらっと横目で倫の顔を覗き見た。やはり正面からは異性と向き合えないらしい。 「え? ああ、うん。私は会社員」 「そうですか。――女の人はいいですよね」  倫の答えを聞いて、少年は薄ら笑いを浮かべた。 「女は別に学歴なんてたいして必要じゃないし、仕事だって適当でいいし。稼ぎのいい男を見つけて結婚すれば、それで人生安泰だし。イージーモードですよね~」 「…………」  倫は黙ってお茶を飲んだ。  少年が口にしたのは、世に跋扈するバカげた戯言だ。恐らくはなんの取り柄もなく恵まれない、哀れな男性が捏ね上げた毒。それは不憫な――例えば、目の前にいる少年のような弱者にだけ、もてはやされているのだ。 「必死に勉強して、つらくても歯を食いしばって、学校に行って……。女はそんな苦労、しなくていいんだもんなあ」  少年はぼろぼろと、泣き言とも嫌味とも取れる愚痴を垂れ流した。  やれやれと頭をかきつつ、倫は飲みかけのペットボトルをテーブルに置いた。 「あのねー。子供のくせにそういう、分かったようなことを言うのはやめといたほうがいいよ」 「だって、本当のことじゃありませんか!」  少年はムッと顔をしかめて、言い返してきた。 「んーとね、『女は楽』なんて言ってたら、女子に嫌われちゃうでしょ。カノジョできないよ?」 「ハァ? そんなもんいりませんし! 興味ありませんし! 時間の無駄ですし!」  こらえ切れず、倫はぷっと吹き出した。 「ははははは! くっ、苦しい! 拗らせ童貞丸出しーーーーー!」 「な……!」  腹を抱えて笑い出す倫を前に、少年は眉を吊り上げ、顔を真っ赤にしている。 「ねえねえ、女の子とつき合ったことあるの? ――ないよねえ。私だったら絶対お断りだもん。君みたいなタイプ、面倒くさいと思うわー」  ――そう、なんと面倒くさい男なのだろうか。  傷つきやすいくせに、妙に攻撃的で。  笑いながら尚も煽ると、少年が睨んでくる。 「お、俺だって……! あなたみたいなオバサン、お断りですよ!」 「へーえ……」  倫は再びペットボトルを手に取ると、一口だけ飲んで唇を湿らせた。  顔では笑っていたが、段々本気で腹が立ってきた。聞き流すことができない。 『女の子なんだから』。あの、母の言葉が蘇る。  女は楽だと? 自分はそのせいで我慢を強いられてきたのに。  少年は、今不幸せなのだろう。だから崩れてしまいそうな自分自身を守るために、より低い立場の人間を必死に必死に探して嘲笑するのだ。  ――例えば、「女」だとか。  そんな彼は惨めで可哀想なのかもしれないが、倫は素直に同情できなかった。  今や酒の酔いはすっかり覚めていた。その代わり別のなにかが、体の内側を食い破っていく。  怒りだろうか。それとももっと、サディスティックな欲求だろうか。  女を蔑むこの少年を、女である自分が痛めつけてやりたい――。 「ねえ」  倫は四つん這いになり、少年との間にあった小さなテーブルの脇を進んだ。 「な、なん……ですか?」  近くなった距離に、少年がぎょっと驚く。彼の目は表情を探ろうと輪の顔を覗き込み、そのあと下がった。  ブラウスのボタンは多めに外したままだ。胸元にちくちく刺さる少年の視線が、愉快だった。  ――女なんて興味ないって言ったのは、どこの誰だっけ?  少年の前に辿り着くと倫は膝立ちになり、よく見ればなかなか整っている彼の顔に向かって、すっと指を伸ばした。 「あ、め、眼鏡は……! 返して……!」  不意にぼやけた視界に少年は戸惑った様子だったが、抵抗はしなかった。  倫は少年の眼鏡をテーブルに置くと、見せつけるようにゆっくりと、ブラウスの残りのボタンを外した。 「私、君には貸しがあるよね。さっき助けてあげたんだから」 「……………」  少年は返事の代わりに、ごくりと生唾を飲んだ。  彼の目の前には、ダークブルーのブラジャーに包まれた大きな膨らみが二つ。倫は少年の手を取ると、自分の胸へと導いた。 「や、柔らかい……」  戸惑いがちに指を動かし、少年は恐らく初めて触れるのだろう、女の胸の感触を楽しんでいる。  倫は背中にあった下着の留め金を、自ら外した。 「……っ!」  間近に接する乳房の美しさと迫力に、少年は息を呑み、叱られた子供のような顔つきになって、倫を見上げた。 「あ、あの」 「好きにしていいんだよ?」 「あ、は、はい!」  許しを得た途端、少年は倫の桃色の乳首に吸いついた。ちゅうちゅうとただ赤ん坊のように吸ってから、やがて舌を絡ませる。  ――チョロいものだ。  倫は少年の手をスカートの裾にくぐらせて、下着の上から陰部を触らせてやった。 「あっ、ここ、は……」  まさに腫れものにふれるようで、いまいち要領を得ないさわり方が滑稽である。倫は苦笑しながら、仕方なく腰を揺らし、少年の指を誘導してやった。 「うん……。そこ」 「は、はい」  薄い布の下、わずかに盛り上がった箇所を見つけると、少年は指で擦り始めた。 「ん……。濡れてきたの、分かる……?」 「……!」  少年は返事をすることも忘れて、蜜を生み始めた秘部と、目の前で悩ましげに揺れる白い胸の虜になっている。  倫は少年から離れると、彼が着ているハーフパンツを引き下げようとした。 「えっ、ちょ、ちょっと……!」  ウエストの部分を押さえて、少年は抵抗する。 「脱がないと、続きできないでしょ?」 「…………………」  倫がやんわり諭すと、少年は渋々ハーフパンツから手を離した。下着と一緒にそれを脱がせてしまうと、ピンといきり立ったペニスが現れる。  隠そうとする少年の手を優しく払いのけて、倫はまじまじと男根を観察した。 「へー、大きいね。ちゃんと剥けてるし。エライエライ」 「み、見ないでください……!」  倫は立ち上がると、サイドボードの引き出しから避妊具を取り出し、戻ってきた。少年を促し、部屋の隅のベッドへ移ると、服をお互いすっかり脱いでしまってから、持ち帰った避妊具をつけてやる。  準備を終えて少年の胴に跨り、見下ろしてみれば――。  少年は天井を向き、大人しく横たわっている。期待と興奮からか薄い胸を忙しく上下させているその姿は、まるで夫となる人を待ちわびる、新婦のようだった。  贅肉はついていないが、筋肉もまたついていない貧相な体。女とケンカしても、もしかしたら負けてしまうんじゃないかと心配になるくらい、少年は青白く細い。  そんな彼と対峙していると、先ほどまで抱いていた激しい怒りが、倫の中からすうっと波のように引いていく。 「うーん……」  倫は少年を組み敷いたまま迷った。  憎まれ口さえ叩かなければ、この少年はただのひ弱なイジメられっ子だ。  ――ひどいことをしてやろうと思ったけど……。  嗜虐的な気持ちは、すっかりどこかへ消え去ってしまった。元々性欲から少年を誘惑したわけではなかったから、こうなってしまうと、もうどうでもいいというか……。 「おねえさん……」  放置されて不安になったのか、少年は倫の腕を下から弱々しく掴んだ。 「えーと……どうしようか」 「ここまでしておいて、それ聞くの!? ひ、ひどすぎる!」 「だよねえ」  相手の気持ちも分かるから、倫は首を傾け、尋ねた。 「したい?」 「は、い……」 「――なにを?」 「なにを、って……!」 「ちゃんと言って? 正確に、具体的にお願いします」  裸の性器どうしをこすり合わせながら、少年の頬にキスをし、倫は先を促した。  陰唇に触れる猛ったペニスは、持ち主よりずっと雄弁に「繋がりたい」と、切なげにビクビク震えながら語っている。 「ほら、どうするの……?」  少年は一度唇を噛んで、くしゃくしゃと泣きそうな顔になりながら叫んだ。 「せ、セックスを……! 俺、おねえさんと、セックスしたい! セックスしたいです!」 「あはは、本当に言った!」  腰の動きを止めず、少年をゆるやかに嬲りながら、倫は笑った。  Sっ気からいじめているわけではない。あまりに反応が初心(うぶ)だから、ついいたずらしたくなるのだ。 「『女なんて興味ない』って言ってたの、誰だっけ?」  ちょっとからかっただけのつもりだったが、少年はシーツに投げ出した拳をぎゅっと握り締めた。 「……だって、仕方ないじゃないですか」 「え?」 「俺が仲良くしたくても、女の人は俺を避けるじゃないか! クラスの女どもも、暗いとかキモいとか言って……。俺なんて……! だから俺は! いい大学に入って、一流の会社に入って……! そうじゃないと……誰からも相手にされないんだ……!」 「…………………」  少年が遂に白状した本音と悲愴な決意に、倫は胸を締めつけられるような想いがした。  よっぽど恵まれた青春時代を送っていない限り、多くが経験するやるせない気持ち。  ――劣等感。もちろん倫にだって覚えがある。  この少年の根底にあるのは、やはり強烈なコンプレックスなのだ。 「そりゃ努力することは必要だけど、自分を卑下し過ぎちゃダメだよ。君、言うほどひどくないよ?」 「じゃ、じゃあ……。おねえさんは、俺を好きになってくれますか?」 「いやあ、今日会ったばかりだからねえ。年下だし」  あっさりと断られて、期待に輝いた少年の目がみるみる落胆の色に染まっていく。倫は慌ててフォローした。 「あっ、でも、嫌いじゃないよ、君みたいなタイプ! 可愛いから!」 「可愛い?」  馬鹿にされていると感じたのか、少年は不服そうだ。 「――可愛いよ。取り繕わず、格好もつけず。さっき私と『したい』と言ったときの君は、可愛かったよ。素直で正直で――いつもそういう君でいなよ」 「………でも」  倫は少年の頭を撫でた。 「可愛い!」  カッコイイ、とは言えない。  ステキ、でもないだろう。  だから褒めるとしたら、こう。――どうか自分の言葉が、彼の心を癒してくれますように。
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