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本棚に追加 最上階はドーム状になっており、外からは脱出は不可能だった。ドームの外はもうすでに水が蔓延しており、おかしなことだが外の様子が真っ白でろくに見えない。
逃げ場はない、と現実を突きつけられる。
二人はぽつんと、屋上で様子を見ているしかなかった。
日江はモール内で巻き始めた渦を見て頬がひきつった。子供の頃に田舎で見た川を思い出したのだ。巻き込まれたら確実に命はないだろう。
助からないという危機からか、日江の口は軽くなっていく。
「ブッチーって、渕川っていう職場の友達だったんだけどさ。妙に馬が合うっていうか。でもそいつ、死んじゃって」
日江の声が情けないぐらい震えている。
今までの強気な態度は小さな器を隠すためだったのは明白だ。
尾府手はキョトンとしている。
「えっ」
気にせず日江は続ける。
「なんで死んだか知らされてないんだけど、ほんと急でさ。なんで死んだか知りたかったんだ。死ぬ前まで元気そうだったんだよ。よく、上瓦に怒られてたんだけど」
全くもって支離滅裂だった。
尾府手は日江が正気か伺おうとしたが、顔を見れば聞くことは出来なかった。
全身が震え、海となったモールを必死の形相で見ている。
「そう」
尾府手は相槌を打つのが精一杯だった。
「上瓦に、なんで死んだか聞いたらはぐらかされて、カッとなって殴って、仕事クビになって。それで、一人で勝手に爆弾なんか作ってさ。よく考えたら、俺が全部悪いんだよ」
過労死かどうかも分からないのに、上瓦を恨んで、ショッピングモールを憎んで、すべて自身の思い込みに近かった。それ程親友の死が衝撃的だったのだが、今の日江には自分を責めることしか出来ない。
もっとうまくやれたんじゃないか。後悔したことは何度もあったから。
「違うよ」
尾府手は彼の声を聞き、はっきりと答える。しかし、日江は頑として譲らない。
「違わねえよ。そもそと渕川は俺のこと職場の同僚程度にしか思ってないんだよ。なのに、仕事のせいであいつが死んだと思って、はあ、俺って昔から空回りでどうしようもない奴なんだ……」
「それは確かにどうしようもないね」
日江はへこたれた。
暴走して人に危害を加えようとした罰が、このショッピングモールの混沌なのだ。もしくは、もう二人とも死んでいるのかもしれない。これは悪夢だ。
屋上のドームにヒビが入り、水が入り込み始める。
「許さないで。ごめんなさい」
しゃがみこんで、か細い声で懇願する。誰に、かは分からない。
尾府手は日江の肩に手を触れようとして、ためらう。上手い慰めの言葉など吐けたら、こんな状況になっていない。立ち回りが上手ければ、と今更後悔しても仕方ないのだ。
水で満ちていくドーム内を見て、尾府手は腹を括った。
「俺は妻との話し合いをせず、問題をそのまま放置して離婚を切り出された」
突拍子もない話題に、日江はつい顔を上げてしまう。
「はい?」
「だから、生きてたら、出来る限り二人になにか出来ないか試みる」
尾府手はじっと見えない外を見つめる。
水が落ちる轟音に、日江はたじろいでいた。尾府手がまた妙なことを言っているのだが、水音が大きすぎて聞こえない。
「な、なに」
日江は聞き返すが、尾府手にも余裕はなかった。無いなりにも、彼に問いかける。
「君はどうする」
「どうって」
仁王立ちの尾府手の膝辺りまで水が侵入している。平常心ではいられないのに、尾府手はじっと踞る日江を見ていた。
「君が言っていたろ。生きてたら、生きてないと、何も始まらないんだろ」
声は、水流に巻かれてしまう。姿も見えなくなって、日江は立ち上がって手を伸ばした。
「尾府手さん」
彼の名を呼んだ。返事はない。

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