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「部活が始まるまで動画サイトでも見て時間潰す?」
「……何で体育にスマホ持ち込んでんの?」
「移動中にゲームしたりするから」
「そうか……。動画じゃなくてさ、職員室に電話して開けてもらえばすぐ出られるんじゃね?」
「あっ、そうだね。すぐに電話する」
スマホ本来の用途を完全に忘れていた。家ではしょっちゅうグループ通話してるのに、学校では完全にゲーム機になっているから。
コール音が鳴り、すぐにつながった。
「2年3組の大竹です。体育館の倉庫で真田くんと閉じ込められているので開けてください」
『大丈夫か? 嫌がらせされているのか?』
「違います。体育の片付けをしていたら、中にいるのに気付かれずに閉められてしまいました」
『すぐに行く』
通話が切れてホッと息を吐き出すと真田くんがブハッと吹き出した。
「スマホ持ってて動画見ようって言われてびっくりしたし、思い出したら笑えてきた」
「ごめんね。もっと早くに気付いてたら、HRをサボることもなかったのに」
「怒ってないよ。祐樹といると楽しいなってこと」
真田くんが屈託なく笑うから、僕も釣られて頬が緩む。初めてこんなに笑う真田くんを見た。
ギギギと耳障りな音を立てて扉が開く。
「大丈夫か? ちゃんと確認するように指導するから」
「そうして!」
真田くんがマットから降りてこちらを振り返る。手を差し出されたから重ねると握られて引き上げられた。スッと立ち上がり、手を引かれて外に出る。
「目がしょぼしょぼする」
「割と暗かったもんな」
手を離して両目を擦った。
「他に気になることはないか? 体調はどうだ?」
先生が親身になって聞いてくれる。
「大丈夫です」
「俺も」
体育倉庫に閉じ込められたのも嫌な思い出にはならないと思う。真田くんに初めて名前を呼ばれて、大笑いする姿を見て、距離が縮まったような気がしたから。
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