前日の昼

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前日の昼

 次の日のお昼にまだまだ足りない素材を集めようとゲームにログインする。ログインしているフレンドの中に文哉の名前を見つけた。  あれ? 試験前じゃないの? 息抜き中かな。少しだけでも一緒にやれたらいいけど。  文哉から電話がかかってきて通話ボタンを押した。 『久しぶり! テストお疲れ!』  聞こえた声は文哉じゃなくて片桐くんだった。 「あっ、ごめんね。一緒にいるところ邪魔しちゃって。今はテスト勉強の休憩中?」 『こっちから掛けてるんだから全然邪魔じゃないし、テストなら昨日終わったよ。文哉くんの部屋でゴロゴロしながらゲームしてたところ』 「え? 来週がテストじゃないの? 真田くんにそう聞いたんだけど」  片桐くんが来週テストだから僕が明日のコラボカフェに誘われたはず。 『ちょっと何言ってるか分かんないんだけど、どういうこと?』  昨日誘ってもらった時のことを思い出しながら話した。 『俊成は俺を出しに使ったってこと? うわっ、ヘタレ!』 「えっと……、真田くんは片桐くんのこと誘いたかったみたいだから、明日は片桐くんが行く?」 『行かないよ。めんどくさいことになってんじゃん!』  めんどくさいって僕のことだよね。黙ってしまったら片桐くんが慌てて違うよ、と声を上げる。 『俊成がめんどくさいってことだから。大竹くんは何も気にしなくていいからね』  優しい声色に安堵の息を吐く。 「何で片桐くんはそんなに優しくしてくれるの?」 『文哉くんの友達だからに決まってるじゃん。コラボカフェ誘った時は文哉くんにちょっとでも変な気起こすようなやつだったらシメようと思ってたんだよね』  物騒なことを言われて、見えもしないのに首を横に振っていた。 「僕と文哉はただの友達だから!」 『うん、そうだね。文哉くんが前髪を切られたって話をしたでしょ? その時に怪我をしなかったか聞いて、文哉くんのことを心配してたでしょ? だからいい友達だね、って話をしたんだよ。それで仲良くしたいなって思った。ヤバッ! 俺、何語っちゃってんの! 恥ずいじゃん!』 『穂高くん顔真っ赤だよ』  文哉がくすくすと笑う。やめてよー、と片桐くんが柔らかい声で叫んだ。  僕の方こそ照れてしまう。それと同時にいい友達に出会えたなって嬉しくなった。 『俊成の話に戻すけど、めんどくさい理由は素直に誘えばいいだけなのにってこと!』 「誘うって僕を?』 『そう、理由は明日のコラボカフェ後とかにでも本人に聞いてみて。はい、この話はおしまい。楽しくゲームしよ』  片桐くんは真田くんの話を終わらせ、文哉に絡み出したようだ。スマホの向こうで猫撫で声を出す片桐くんと焦ったような文哉の声色が聞こえる。ちょっと気まずい。 『えっと、お待たせ。一緒にやろ』 「あっ、うん……」  文哉が喋っているのと同時に聞こえたチュッチュッという音はきっと気のせい。頭を振ってゲームに集中する。  1時間ほど楽しく素材集めをして、2人が出かけると言うからお開きになった。でも正直助かった。スマホの向こうでイチャついているであろうことが伺えたから。胸焼けしそうだった。  いつもは各々の部屋から通話を繋げてゲームをしている。文哉と片桐くんが一緒にいてゲームをするのは初めてだった。また同じことがあれば、次はそっと落ちよう。
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