その日の夜

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その日の夜

 帰宅して夕食もお風呂も終わらせ、寝るだけの状態でベッドの上でゴロゴロと寝返りを打つ。  いつもならゲームをしているのに、何も手につかない。イベント装備だって全て揃っていないし、明日で終わりだから最後の追い込みをかけたいのに。  人に好意を向けられた経験が乏しからどうしたらいいのか分からない。  スマホを手に取って文哉にメッセージを送ろうとしては止めてを繰り返す。今日のことを真田くんの了承も得ずに話していいのか迷って。  大きく息を吐き出して、やっぱりやめよう、と思った時にゲームから通知が来てその音に驚く。 「あっ!」  手が送信の画面に触れていた。 『話を聞いて欲しい』  その文を慌てて消そうとしたけど、その前に既読になってしまった。  すぐに文哉から着信があり、通話ボタンを押す。 『もしもし、どうしたの?』 「……えっと」  言葉に詰まる。僕が黙り込んでしまうと、文哉が声をかけてくれた。 『真田くんと何かあった? 穂高くん呼ぼうか?』  真田くんと仲のいい片桐くんに話すのはためらわれるけど、何かアドバイスも欲しい。僕は何に悩んでいてどうしたいのかも分からない。迷った末、相談に乗ってもらうことを選んだ。 「……お願いしてもいい?」 『分かった、ちょっと待ってて』  片桐くんはすぐに通話に参加してくれた。 『どうしたの? 俊成に何かされた? ぶん殴ってあげようか?』 「えっ? 何もされてないし、殴らないで」  開口一番物騒な言葉が飛び出てきて、慌てて止める。  迷ったけれど、ありのままを全部話した。要点をまとめられないような僕の話を2人は何も言わずに聞いてくれる。  話終わると片桐くんの盛大なため息が聞こえた。 『ぬるい! 俺のばあちゃんが淹れるコーヒーよりぬるいよ大竹くん! 俊成、マジヘタレ! 自分で好きだって言ってないし、返事はしなくていいとか言い逃げするし。大竹くんはぶん殴ってでも言わせないと!』  それは僕には無理だよ……。 「僕はどうしたらいいのかな?」 『大竹くんがどうしたいかじゃない? 友達のままでいたいなら、俊成の言う通り返事をせずに今まで通りでいいし、無理だったら盛大にフってやればいい』  友達ではいたい。フったら友達でいられなくなるから、このまま何も言わないほうがいいのかな。相談に乗ってもらえたら気持ちが晴れるかと思ったけど、モヤモヤが増す。 『万が一付き合いたいと思っているなら、大竹くんから言わなきゃいけないんだよね。今の状態だと。俊成は自分からどう口説いたらいいか分かんないんだろうね。恋愛に関して若葉マーク付いてるから』  誰もが振り返るような美形なのに恋愛初心者なの? それは僕も同じだけど、僕はカッコよくないし仕方がないと思う。 『祐樹はどうしたいの?』  文哉の僕を気遣うような優しい声が耳に届く。 「僕は友達でいたい……」  そう言葉にしても、心はスッキリしない。友達でいたいのは事実なのに、胸に何かつっかえているような不快感が残る。 『じゃあ今まで通りでいいんじゃない? 今の答えは歯切れが悪いと思ったけど、何かあったらまた言って。話は聞くし、俊成に何か言って欲しいなら言うし。それまでは俊成に何か言ったりイジったりはしないから。今、煽る系のスタンプをめちゃくちゃ連投したいけど』  親身になってくれて心が温かく灯る。最後の言葉は冗談なのか本気なのか分からなくて苦笑いしか浮かべられない。    
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