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コラボカフェ
コラボカフェの内装はSNSで見た通り、ゲームの世界だった。冒険者が集まる酒場そのもの。席に案内されてもメニューそっちのけで、辺りを見渡してばかり。
ふっ、と真田くんが笑い、隣に目を向けると僕を見ていた。視線がかち合う。
「すげー口開いてんな」
顔に熱が集まり、慌てて口を手で覆う。
「悪い、ダメなふうに捉えてほしくない。すごくこのゲームが好きで、楽しみにしてたんだなって思っただけで」
目を細めてこちらに手を伸ばすと、端正な指が口を押さえている手に触れる。指を絡められてそっと下ろされた。目を瞬かせて固まるし、指摘された口も半開きになってしまう。
「ちょっと距離感考えろよ」
「あっ、悪い」
片桐くんに指摘されてハッとした真田くんが頭を下げる。
「ううん、少しびっくりして」
触れられた指が熱いし、至近距離で真田くんに笑いかけられて心臓が飛び出るかと思った。僕は美形に耐性が無さすぎる。
「何を頼む?」
文哉にメニューを向けられて、ゲーム内で出てきた料理に顔を輝かせる。全部美味しそう!
ドリンクはドロップ率アップの黄色いドリンクにして、料理はオムライスとサラダが乗ったプレートを選んだ。
料理がくるまで時間があるから、席を立って撮影スポットに向かう。
等身大のキャラクターパネルの前に立つと、全員すごく大きいことを知る。シャッターを押していると、真田くんに肩を叩かれた。
「一緒に撮ろうか?」
「え? いいの? このキャラと一緒に撮って!」
真田くんにスマホを渡し、強面で隻眼だけど情に熱い剣のエキスパートの隣に立つ。ハードボイルドでカッコいい。
真田くんはポカンとした表情の後に、額を押さえて天井を仰ぐ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。撮るぞ」
シャッター音が鳴り、スマホを受け取る。推しと一緒に写っていて嬉しくてたまらない。
「ありがとう。真田くんはどのキャラクターが好き? 今度は僕が撮るよ」
スマホを受け取ろうと手のひらを上に向けると、真田くんの手を重ねられる。すぐに掴まれて酒場の看板娘とコック長の間に連れて行かれた。
「穂高、撮って」
真田くんは片桐くんにスマホを渡し、僕の肩に腕を回して引き寄せる。
驚きすぎて真田くんの顔を見上げる。
「こっちじゃなくて前見ろよ」
「いや、そうだけど、近いなって」
「近くないとキャラクターが隠れるだろ」
そうか、この2人と一緒に撮りたいから間にいる僕と真田くんは引っ付かないと全部写らないんだ。気を使えなくて申し訳なくなった。僕もなるべく真田くんに寄る。
「撮るよ」
片桐くんに声をかけられて、前に目を向ける。撮り終えた片桐くんが真田くんにスマホを返す。写りを見せてもらったけど、それを見て思ったのは、僕は写らない方が良かったんじゃないかってこと。何で推しと撮るのに真田くんは僕も誘ってくれたんだろう?
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