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料理が運ばれたから席に戻った。
リュックから賞状筒を取り出して、フードメニューについている限定のランチョンマットを丸めて入れる。文哉と片桐くんも同じことをした。
「……それを持ってくるのって常識なの?」
真田くんは唯一持っていない。
「俺はコラボカフェとか初めてだから分からないけど、事前に文哉くんに折らずに持って帰れるから便利って聞いてたから持ってきた」
「何で俺に教えとかないの? 一緒に入れといて」
真田くんは片桐くんに渡す。
ドリンクについているコースターは酒場の看板娘だった。真田くんの好きなキャラだ。
「これ、やるよ」
真田くんがこちらに差し出したのは、僕の推しキャラ。
「ありがとう。僕のは真田くんにあげる」
「ああ、ありがとう」
キャラクターが多いから、推しが手に入るなんて思わなかった。SNSで交換をしてもらおうと思っていたからすごく嬉しい。
料理もドリンクも見た目はもちろん完全再現だ。
「文哉、オムライス食べる?」
「うん、祐樹にもパスタあげる」
小皿に少し分けて、正面に座る文哉と交換した。それを片桐くんがジッと見ていた。
もしかして嫉妬してる?
「あの、ごめんね。文哉とこういうお店に来ると、いつも交換してて。2種類食べられるから」
片桐くんに謝るとケラケラ笑って手を振る。
「俺はそんな器の小さい男じゃないよ。大竹くんは文哉くんの友達なんだから、いつも通りでいいよ。俺は俺で好きにやるから」
「そっか、ありがとう」
「何で謝るんだ? 悪いことしてないだろ?」
悪いことはしてないけど、嫌な思いさせちゃったかなって思ったから。真田くんは片桐くんと文哉が付き合ってること知らないのかな?
「文哉くん、一口ちょうだい」
「いいよ」
文哉がお皿を片桐くんの方に寄せるけど、片桐くんはあーんと口を開けて待っている。
戸惑う文哉にあーん、と言って催促した。顔を真っ赤にしながら文哉がパスタを巻きつけて片桐くんの口に差し出す。それを咥えて満足そうに片桐くんは咀嚼した。
友達のイチャイチャを見せられて居心地が悪いし耳まで熱くなる。
「あー、そういうこと」
僕が謝った理由が分かったようで、真田くんが肩をすくめた。
「文哉くんに食べさせてもらえたからより美味しい! 文哉くんもどうぞ」
今度は片桐くんが文哉の口元に唐揚げを向ける。文哉は視線を彷徨わせていたけど、片桐くんがやめないと悟って一口で頬張った。
「まだ続けんのかよ」
「俺だけもらうのは不公平だろ」
苦笑する真田くんに片桐くんはご満悦といった表情を向ける。
「俺らもやる?」
真田くんに言われて口の中のものを吹き出しそうになった。ドリンクで一気に流し込む。
「えっ?! な……なんで僕?」
「冗談だ」
揶揄われたと知って恥ずかしい。僕は誰かと付き合ったこともないし、食べさせ合うなんて経験もしたことがないんだから、そんな冗談はやめてほしい。
無言でオムライスを食べると、悪かった、と申し訳なさそうな声が聞こえた。隣に目を向ける。真田くんが眉尻を下げて僕を見下ろしていた。
「ううん、大丈夫だから気にしないで」
笑いかければ、真田くんはホッとしたように目を細めた。
ゲームの話をしながらの食事は楽しく、話すのに夢中で食べることを忘れていた。好きなことになると早口で饒舌になってしまう。片桐くんはオタクに優しい奇跡のイケメンギャルだけど、真田くんにも引かれていないようでホッとした。
ゲームを始めたばかりだって言ってたから、ゲームの話に興味があるのかな。
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