悪役令嬢として婚約破棄された私は、大貴族で幼馴染の先輩に助けられて辺境で溺愛される

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「ニーナ、残念だが、キミは皇太子の婚約者として、ふさわしくない。キミとの婚約を破棄する」  グレア帝国の皇太子様は、私にそう宣告する。  ここは、卒業パーティーの晴れ舞台。  彼は、浮気相手が流したデマを信じて、私との婚約を破棄(はき)した。  生まれた時からの婚約者である私よりも、出会って2年ばかりの浮気相手を選ぶのね。  その事実は、私の人生そのものの否定に思えた。  私はうなだれる。自分の黒い髪が崩れていくのがわかる。それはまるで破滅の運命を象徴するみたいね。  もうすべてが終わり。このまま死んでしまいたい。私の居場所なんてどこにもないのだから…… 「お前が持つすべての権利をはく奪して、国外追放に処……」  煮るなり焼くなり好きにすればいいわ。権力闘争に敗れた貴族の末路なんて悲惨なものなんだから。 「お待ちください!!」  ホールには、皇太子の決定に、異を唱える大きな声が響く。  どうして?  皇太子様に、逆らえば、破滅の運命しか待っていないのに……  私と心中してくれる物好きの方がいらっしゃるなら、嬉しいけど……その方まで、私の破滅の運命に付き合う必要なんてないわ!  私は振り返る。  そこで、私は運命と出会った。 「お待ちください、皇太子様。仮にも相手は公爵令嬢です。帝国法のどこにも、皇太子様が臣下を勝手に国外追放にしていいなど書いてはおりません。刑を決めるのは、裁判所であり皇帝陛下です。それをしてしまえば、皇帝権と司法権の侵害となり貴方(あなた)の立場も危うくなります」  金髪ですらりとした体。社交界の女性がうらやむ美貌(びぼう)。  皇族に次ぐ権勢を誇るオーラリア辺境伯フランツ様だった。  彼は、私の1歳年上の先輩で、昔から家族ぐるみで付き合いのある幼馴染。 「オーラリア辺境伯……」  皇太子は、彼のことをにらむ。だが、彼の進言を聞き入れないわけにはいかないのだ。  オーラリア辺境領は、隣国との最前線の領土であり、例外的に独自の軍事力を持つことが許されている。その軍事力は、帝国軍全体の20パーセントを占めるほど強力であり、下手に軽んじようものなら国を2つに分ける内乱が発生しかねない。  フランツ辺境伯は、ご両親が早くに亡くなり、若くして名門の当主になった。しかし、その才覚は帝国随一とされている。彼は、次期皇帝を選出する際に、選挙権を付与されている選帝侯のひとりでもあり、いくら皇太子さまでも彼と正面から対立することは避けたいはず。  それも、辺境伯の言い分は至極当然の内容だ。皇族とはいえ、裁判もなく臣下を国外追放などしていいわけがない。横暴すぎる。会場の雰囲気も、皇太子不利だ。 「しかし、俺にもメンツが……」 「であれば、ニーナ公爵令嬢は私にお任せください。私は、彼女とも長い付き合いですし、穏便に済ませることができるはずです。さらに、皇太子様も、婚約者の不手際を理由に、彼女を辺境に謹慎させたとして、顔に泥が塗られることもありますまい」  ぐぬぬと、私の元婚約者はやりこめられていた。  さすがは、帝国最高の頭脳。この修羅場でもなんなく、私を守ってくれた。 「(けい)に任せる」 「ありがたきお言葉……」  こうして、私は新しい人生を歩むことになった。
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