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治療兵の言葉で、現実に引き戻された私は、そのあとは無我夢中で治癒魔法をかけ続けた。
これ以上の死者が出ないことを願って。
治癒魔法をかけ続ける時、私は負傷兵に対して「大丈夫、大丈夫。気をしっかりもってください」と声をかけることしかできなかった。
自分の無力さを痛感していたわ。
フランツ様がこの負傷兵の中にいなかったことだけが、私の救いだった。
※
「お疲れ様、ニーナ」
交代の時間になったので、自室で休むために、私は病室を離れたわ。自室の前にはフランツ様が待っていてくれた。
「よかった。ご無事でなによりです。おかえりなさい、フランツ様……」
私は、彼の顔をもう一度見ることができた安心感で泣きそうだった。
「心配をかけたね。食欲はないかもしれないけど、スープを持ってきた。よかったら、飲んでくれ」
陶器に入ったスープを差し出してくれた。野菜とベーコンのスープ。
私たちは、一緒に部屋に入る。
負傷兵の人たちが話してくれた。魔獣は、思った以上に頑丈で白兵戦になってしまったこと。
負傷者の撤退をかばうために、フランツ様とチャーチル少将が時間を稼ぎ、ついには魔獣を討伐したこと……
そして、皇太子さまは、初めて見た魔物に、しどろもどろになり、具体的な指示を出せなくなり、パニックになって無策な突撃指示を出して、被害を拡大させてしまったこと。
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