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「美味しいかい、ふたりとも?」
「はい、お兄様、とっても美味しいです!」
「ええ、本当に焼き立ては最高ですわ」
「きっと、お兄様は、ニーナ様がこのお菓子を好きなことを知って買ってきてくださったのね」
「えっ?」
「昔、よく3人で遊んだ時に、ニーナが美味しそうに食べていたからね。よく覚えているよ。なんだか、童心に帰ってしまうね」
フランツ様は、優しく笑った。そして、お茶を美味しそうに飲む。彼は、意外と甘いものが好きなのよね。お菓子も楽しんでいた。
「お恥ずかしいです」
「いいじゃないですか、ニーナ様! 私たちしかいませんから。3人で楽しく子供のころに戻りましょうよ」
「私も仕事を忘れられるからね。是非ともそうしたいな!」
「もう、お兄様ったら、オーラリア辺境伯家の当主が、そんな不良では困りますわ」
ふたりは、私に気を遣ってくれている。そんなふたりの優しさが、私を癒してくれた。
「そうだ! いっそのこと、お兄様とニーナ様がご結婚なさればいいじゃないですか? お兄様も結婚適齢期なのに、婚約者もいないし。お見合いの話があっても、私を口実にすぐに断ってしまうから私も心配なんですよ……いい加減、身を固めてもいいんじゃないですか? ニーナ様は、文武両道の素敵な女性ですよ?」
「ははは、それはいい。私も、ニーナなら楽しく結婚生活を送れるかもな……」
「ふたりとも、からかわないでください!! もう!」
「振られてしまいましたね、お兄様! 残念でした。ちょっと、本気だったんじゃないですか?」
「おいおい、マリア。傷心の兄にこれ以上追い打ちはやめてくれよ。ごめん、ごめん、ニーナ。お詫びに、今夜は美味しい夕食を作ろう。こう見えても、私は料理が趣味だからね」
大貴族の趣味が料理というのは珍しい。軍務のために、戦場で野営することもあるからそこで覚えたと以前、お話をしてくれた。
もし、私が生まれた時から皇太子さまの婚約者じゃなかったらどうなっていたんだろう。
フランツ様に憧れがなかったと言えば嘘になる。だって、学園始まって以来の秀才とも言われていて、戦場でも外交の場でも大活躍している名門の当主。そして、面倒見のいいひとつ年上の幼馴染のお兄さんだ。
憧れの先輩。
正直に言えば、皇太子様よりも、フランツ様のほうが人気がある。私の元婚約者様も、目の前の貴公子に嫉妬している節があった。
あんな浮気性の人じゃなくて、誠実なフランツ様と一緒になることができたら、どんなに幸せだろうか。
でも、私は罪人みたいな者。そんな分不相応の幸せを求めてはいけない。
もし、皇太子様に婚約破棄された私が、彼と幸せになったら、間違いなく彼の重荷になってしまう。だから、私は、幼馴染の先輩に対する憧れを封印する……
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