そのころ王子は

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そのころ王子は

―王子視点― 「ここは……」  俺は、たしか外交使節団の接待を任せられて、メアリと一緒にパーティーに参加したはず。  そして、気が付いたら、ベッドの上で寝ていた。夜だったはずの景色は朝になってしまっていた。  たしか、メアリが美味しいお酒をたくさん飲みたいと言い出して……  大事なパーティーの場で彼女がワインのラッパ飲みを……  その光景を思い出して、血の気が引いていく。  まさか、俺たちは大事な外交デビューの場で醜態を…… 「おい、誰かいないか!!」  俺は慌てて、誰かを呼んだ。しかし、酒のせいで、声がかすれてしまい廊下まで届かない。 『おい、聞いたか。昨日のパーティーのこと!』 『ああ、聞いたよ。なんでも、皇太子様とメアリ様が大暴走して、通商条約の締結が持ち越しになったんだってな』  廊下から衛兵たちの噂話が聞こえてくる。  たしか、今回のヴォルフスブルク帝国との条約は、陛下が主導して数年単位の交渉でなんとか妥協点が見つかったとかで、明日にでも本締結の予定だったんじゃ…… 『メアリ様が、向こうの全権大使のことをジャガイモ公爵とか言っちゃったんだろう。そりゃあ怒って帰るよな』 『ニーナ公爵令嬢との婚約を破棄して、あんなテーブルマナーも知らない田舎貴族を選ぶなんてな。あんなのどこがいいんだろう。大陸最強の陸軍国を怒らせるとかやばすぎ……』 『なんでも、彼女の自由奔放さと自分を皇太子としてではなく、一人の人間として見てくれるところが気に入ったとか……』 『馬鹿すぎて、何も考えてないだけじゃねぇのかな』 『言えてる』  俺が酔いつぶれている間に、なんということが起きたんだ…… 『そもそも、接待する主人が泥酔とか、この国、もうだめなんじゃないか』 『ああ。でも、明日はフランツ辺境伯が、使節団と交渉してくれるらしい』 『なら、安心かもな。あの人に任せておけば、たいていのことはうまくいくし』 『それに、ヴォルフスブルク語の使い手のニーナ公爵令嬢も一緒に交渉に参加してくれるらしい』 『もしかして、ニーナ様、あまりにも残念な皇太子様を見捨てて、フランツ様のもとに逃げたのかもな』 『たしかに、あのふたりなら、お似合いかも……というか、フランツ様が次期皇帝陛下になってほしいな』 『さすがに、それは不敬だぞ!』  そう言って、衛兵たちは俺の部屋から離れていく。  どうして、俺は、フランツとばかり比べられるんだ……  あの天才は、俺のことをどこまで邪魔する!!  もしかしたら、あいつは今頃ニーナと一緒に俺のことを馬鹿にしている最中かもしれない。  俺は、部屋にある花瓶を壁に叩きつける。  すさまじい音がして、陶器が粉々に砕け散った。 「くそおおおぉぉぉぉおおおおお」
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