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王子の浮気相手
「皇太子様、おめでとうございます! 今回の条約締結の件で、皇帝陛下からなにか褒美などいただけたんですか?」
メアリ男爵令嬢は、無邪気に俺に近づいてきた。
「(こいつは、一体、何を言っているんだ?)」
俺は皇帝陛下からきつい叱責を受けたばかりだ。
それはそうだろう。外交使節団の接待パーティーで醜態をさらしてしまった。
下手をすれば、大陸最強の軍事力を持つ国家との危機的な状況を招きかねない大ポカだ。
「とても盛り上がりましたからね、あのパーティー!! 全権大使様も無礼講とおっしゃっていましたし、私も盛り上げるために、頑張りましたから!」
とても純粋無垢な笑顔を俺に向けてくるメアリ。
これは本気で言っている。彼女は、あの醜態をパーティーを盛り上げるつもりでやったとか……
「そうだ、今回の成功を祝って、明日は遠出しませんか? 私、街でショッピングがしたいです」
俺が皇太子としての資格や覚悟が不十分とか激しく怒られた。
あげくに、辺境伯とニーナの大活躍を聞かなければいけなくなったんだ。
王宮の全員が、俺がニーナとの婚約を破棄したことを知っているのに……
婚約破棄した女よりも、俺の方が無能だと噂されている。
その屈辱で、俺は身が引き裂かれそうだ。
なのに、この新しい婚約者は、俺を慰めることもなく、買い物に行きたいとほざいている?
なんて、女なんだ……
「悪い、明日は仕事が立て込んでいるから、遠出はまた今度な」
「そんな~! 私、最近はマナーや語学の勉強で、先生に怒られてばかりで、もう嫌なんですよ。私は、将来の皇后様になるはずなのに、どうしてみんな私にやさしくしてくれないんですか~」
何を言ってるんだ。お前は、まだ基礎コースも終わってないじゃないか。いつも教師から、かばってやってるのに……
この期に及んでサボりたいとか……
やめてくれ、俺の立場がさらに悪くなる。
「だいたい、みんな私をニーナ様と比べすぎなんですよ。彼女は、生まれた時からこの教育を受けていたんだから、私よりもできるのは当たり前なのに!!」
自分から皇后になりたいと言っていたんだから、それくらいは普通にこなしてくれよ。
そもそも、ニーナはこんなことに文句の一つも言わずに、完璧にこなしていた。今回の件でも、傍らにいるのがニーナだったら……
そんなことを考えてしまう自分がどうしようもなくみっともなかった。
「頼む、仕事のことで疲れたんだ。ちょっと、ひとりにしてくれ」
このまま、彼女を好き勝手にさせていたら、何を言い出すかわからない。
俺はひとりになりたかった。
「わかりました。でも、ショッピングの件は考えておいてくださいね!」
彼女は、そう言って自分の部屋に消えていく。
「(帰ってきてくれ、ニーナ)」
俺は、後悔にさいなまれていた。
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