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やはり、初動がよくなかったのね。魔獣の出現は、それだけで政府の信用を低下させるわ。国民の間にもパニックが生まれて、収拾がつかなくなりやすい。だから、ヴォルフスブルクは、初動で精鋭部隊による隠ぺいを目指したけど失敗して被害を拡大させてしまった。
本来ならば、軍の全力をもって叩くべきだった。でもそうすると、臣民たちも気づいてしまう。
それがいけなかった。魔獣は数が少ない初動対応が大事だったのに……
「今日から、砦の方に向かおうと思う」
フランツ様が、皆にそう言った。
「今日ですか?」
私は驚きながら、聞き返す。
「うん。ヴォルフスブルク帝国参謀本部が軍の一部、転進を決めたようだ。転進なんてカッコいい言葉を使っているけど、しょせんは撤退だよ。包囲が限界に達してしまったようだね」
「……」
最悪の状況ね。包囲が限界になってしまったら、もう魔獣は抑えられない。どこに出現するかもわからなくなるわ。
つまり、国境を越境して、辺境伯領に到達することもありうる。
それに備えて、対策本部を前線に移すということね。
「ニーナ。僕としては、キミはここに残って欲しい。砦だって安全とは言い切れないからね。それに、帝都から派遣される援軍は、皇太子殿下が執るらしい」
私を心配してくれる彼の優しさは嬉しい。あの男の顔を見なくてはいけなくなるも辛い。でも――
「いいえ、私にしかできないことを、やりたいですわ。どうか一緒に連れて行ってください」
「わかった」
彼は目を閉じて、頷いてくれる。
「じゃあ、行こうか!」
私たちは最前線に向かう。
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