真夜中の流星群

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「東京には夢がある」  誰かがそのような類の歌詞を歌っていたはず。  過去の自分から脱却することを目指し、できるだけ爽やかに見えるように、髪型も服装も意識を変えた。  まずはサークルに入る。これが一番の、大学生活での成功の近道。  入学早々から、手当たり次第に新歓コンパに参加した。調子にのっていたら見向きもされないのはわかっている。  あくまでも爽やか。そして柔らかく。  俺のキャラクターはすぐに受け入れられ、瞬く間に友達ができた。  彼女を作ってエンジョイする……その目標を達成するのも、案外イージーなのかもしれない。    結局、自分と雰囲気が噛み合いそうな、カメラサークルに入った。  男女の比率もバランスが良いし、文化チックなところともフィットしている。  カメラに興味はなかったけど、我ながら良いチョイスだと思えた。早速親から貰った仕送りを使って、安めのミラーレス一眼を買う。  俺の代の同級生は、俺を含めて十一人。  そこで、息を飲むような出会いをする。 「黒島、宮館双葉って、どう思う?」 「宮館さん? い、いや……どうって」 「とぼけるなよ。めっちゃ可愛くないか? もしかして黒島、そういうの興味ない?」 「いや、ないわけないだろ。確かに可愛いよな」 「だよなー。付き合いてぇー」  一番最初に仲良くなった北沢は、女とギャンブルが好き。  あんまり女子ウケは良くなさそうだけど、話しやすくてノリが良かった。  あと、意外と優しい。  高校の時は軽音楽部でバンドをやっていたらしく、見た目も含めて全てが『確かにやってそう』と思えるほど、典型的なチャラさを感じられた。 「いや、黒島よ? 俺なんかカメラなんて興味の『きょ』の字もないのに、宮館さんを追って来ちまったんだから」 「そうなのか、すごい執念だな」 「バカ、執念じゃない。作戦だ」 「ああ、確かに。最初インスタントカメラを持ってきた時はビビったわ。強制ではないけど、一応ちゃんとしたのを買った方が良いと思ったし」 「そういうのは後回しにしてたからな。今となっては反省してるよ」  最初に会った時から、北沢は面白いやつだと思った。  仲良くなるのに時間はかからず、すぐにテンポの良い掛け合いができるほどになった。  だけど、宮館双葉の話が出た時だけは、心臓が高鳴った。  カメラサークルに入って、双葉と最初に会話をした時から、俺の心は双葉に奪われてしまっていたから……。
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