真夜中の流星群

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「すげぇ! 庭でバドミントンできるぞ!」  少年のようにはしゃぐ北沢。  普段は大人っぽい先輩たちも、この施設に来たら全員が少年少女のように笑顔になった。  一面に芝生が敷き詰められている庭。ハンモックが設置されていたり、バドミントンコートがあったり、色んな遊びができそうだ。  バーベキューができるコンロ。あとはバンガローの中にキッチンがある。  結局は夜まで体を動かして、ご飯を食べるだけ。  星空を撮るのが目的なのに、メインはグランピングだった。 「黒島、俺も先輩たちとバーベキューしてくるわ!」 「え? ああ……」  バンガローの中のソファーで休憩していたら、北沢のスイッチが急に入った。  醍醐味であるバーベキューが始まったと聞くと、俺を置いて即座に参加しに行った。 「あれ、黒島君は行かないの?」  騒がしい庭の方を見ながらひと息ついていると、隣に双葉が座ってきた。  車内では気づかなかったけど、双葉からは金木犀の香水の匂いがした。 「まあ……大人数で集まるのあんまり好きじゃないし」 「私も。凜香は行っちゃったけど」  大人数が好きじゃない……双葉も一緒だった。誰かが焼く係になって、炭を熾す係になって、取り分ける係になって……そこまで気を使うのが得意じゃない。  サークル活動は嫌いじゃないけど、そういうグループワークからはなるべく避けてきたのだ。  双葉も近い感覚を持っていたとは。 「でも、お腹空かない?」  双葉が聞く。俺は「まあ、空いたよね」と返した。  おもむろに立ち上がった双葉は、バンガローの中にあるキッチンまで行って、「こっちはこっちで何か作りますか」と腕まくりをしてみせた。 「宮館さん、何か作れるの?」  本当は双葉と呼びたいけど、急に下の名前で呼んだら気持ち悪いと思われる。  いつか、どこかのタイミングでチャレンジしてみようと考えているけど、当面は宮館さん呼びでいこうと決めていた。 「私、意外と料理好きなの。黒島君何食べたい?」 「えーと、どうしよっかな……」 「待って、食材バーベキュー組から奪ってこないと。ちょっと待ってね」  すでに盛り上がりを見せている庭のバーベキュー集団に入っていく双葉。  みんなの会話の邪魔にならないように密やかに飛び込んで、ポン、ポンと懐に食材をおさめてからバンガローの中に戻ってきた。  忍者のような素早さに、思わず吹き出してしまう。
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