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うふふと笑いながら、だけどもちゃんと応えるように唇を重ねている。
その女の子は紛れもなく、双葉だ。
相手は……北沢だった。
双葉はまんざらでもないように手を北沢に絡ませていて、それが目に入った俺は、心臓が握られるほど痛く思えた。
目が覚めた瞬間は頭が痛かったけど、一瞬で吹き飛んだ。
酔いも醒めたし、瞼も重くなくなった。
どうして双葉が北沢と……俺が丁寧に積み重ねていった高級な積み木を、雑に蹴とばされたみたいだった。
双葉は酔っているのか。それともシラフか。
あんなにお酒を飲んでいたんだ。きっとまだ酔っているに違いない。
だって、あんなに俺と良い雰囲気になっていたじゃないか。
その場のノリ。それしか考えられない。
酒に酔って、強引に迫ってくる北沢を、断ることができなかった……そうであってほしい。
……いや、そんな良いように考えても仕方ない。
願望は虚しくも、目の前で横たわりながらキスをしている二人は、合意の下で行為に及んでいる。
信じたくないけど、現実問題そうなのだ。
女の気持ちがよくわからない。俺は目を瞑りながら、泣きそうになった。
これから双葉と何かしらに発展しそうな空気感だったのに、北沢とのたった一晩の楽しいお酒の時間を過ごしただけで、そっちに心変わりできるというのか。
いや……双葉にとって、俺はまったく、恋愛対象じゃなかったのかもしれない。
双葉は、天性の男ったらしだったのかも。
そう考えると、スーッと血の気が引いて、吐き気を催してきた。この空間にいると、体がおかしくなってしまう。
俺は物音で起きた演技をして、寝ぼけている仕草を見せるようにしてトイレに向かった。
北沢と双葉は本当に俺が寝ぼけていると思ったのか、フフフと小さく笑いながら寝ている演技を始める。
全部気づいているんだからな。
トイレをスルーして、ベランダから庭に出た。
誰も俺に気づいている人はいない。
庭にあるベンチに座って、項垂れる。
夏なのにヒンヤリする。ちょっと肌寒い空の下。
冷たい風が熱の持った頭を冷ますようだ。
涙が流れそうになるのをグッと堪える。
これが、失恋なのか?
叫びたくなるぐらいに頭の中がぐちゃぐちゃになっている時、後ろから芝生を踏んで歩いてくる足音が聞こえてきた。
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