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一氏は玲の周りに少しずついるようになった。まだ他のみんなのように自信がないから、隣には恐れ多くていれない。隣になんか立ったら、それこそパニックの連発で物を壊したり、転んだりなどカッコ悪い余計な部分を見せそうだ。
「一氏はなんか、番犬みたいだな」
「番犬ですか?」
「そう。そばにいて、普段はおとなしくしてるけど、いざって時は私を守ってくれる頼もしい番犬」
「玲さんを守れるなら、番犬でもなんでもなります」
一氏の返事に玲は笑う。そして、その笑顔のまま言った。
「じゃあ、私がピンチの時はおまえを呼べばいいな?」
「っ!……もちろんです!」
一氏は力強く頷く。そんな一氏を見て、玲も嬉しそうに笑った。
「ケルベロスとかかっこいいよな。三つ首の番犬」
「……僕、首を増やしてきた方がいいですか?」
「おまえの泣き顔が三つか……なかなかシュールだな」
「……僕、泣いてません」
「え?常にパニックになって泣いてるだろ?」
「はい!?」
「ははは!冗談だよ!」
一氏の必死の否定に玲は笑う。そんな玲を見て、一氏は思った。
“やっぱり、この笑顔を守りたい”と。そして“あなたにとって特別な存在になりたい”と。
その願いが叶う日を夢見てーー今日も一氏は思う。早く隣に立ちたいと。
そんな一氏の思考など知らない玲は、ひとしきり笑った後「でも……」と静かに切り出す。
「泣いてもパニックになっても、それがおまえなんだから別に気にしなくていい。そのままでいてくれよ?」
玲は一氏の頬に手を伸ばす。優しく触れるその指の感触に一氏は自然と身を委ねた。
「それが私の好きな、おまえのありのままなんだから」
そう言って笑う玲の顔は誰よりも綺麗に見えてーー。
「僕、玲さんの隣を……目指してもいいですか?」
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