夢の食事

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 なぁ、俺。お前はいったい何を食ってるんだ?  昔から何度となく見る夢。  夢の中で、俺はいつも何かが入った丼をかきこんでいる。  それこそ脇目もふらず、一心不乱に飯を食い続ける俺。  それを側でじっと見ている俺がいる。  自分の飯の食い方を見ると、やたらと腹が減ってきて、俺もそれを食いたくなるんだ。  だけどいつも見ているだけ。その状態でやがて目が覚める。  それを繰り返してきたけれど、今日はもう我慢ができず、俺は俺が手にする丼を取ろうとした。  その時、いつもなら完全にこちらを無視している俺が俺を見た。  丼を取られようとしているのに、やけに嬉しそうにニヤリと笑う。  それを見た瞬間、俺は伸ばした手を引っ込めていた。  俺がまた何かを食べ始めるが、いつものように無関心できない。やたらチラチラとこちらを窺っている。  けれどもう、俺は俺から丼を奪う気はなかった。  おそらくだが、そこには、決して口にしてはいけないものが入っている。夢の中とはいえ、それを食べたら俺は何かの一線を越えてしまい、多分、現実でもその何かを食べたいと思うようになる。  そんなもの、絶対に食べない。『それ』への食欲を振り切り、俺は人間でいられるよう踏みとどまるんだ。  そう誓った瞬間、目が覚めた。  この時以来、自分が飯を食う夢を見ることはなくなった。  どうやら俺は、深層意識の底に眠る、厄介欲求に勝てたらしい。 夢の食事…完
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