0人が本棚に入れています
本棚に追加
なぁ、俺。お前はいったい何を食ってるんだ?
昔から何度となく見る夢。
夢の中で、俺はいつも何かが入った丼をかきこんでいる。
それこそ脇目もふらず、一心不乱に飯を食い続ける俺。
それを側でじっと見ている俺がいる。
自分の飯の食い方を見ると、やたらと腹が減ってきて、俺もそれを食いたくなるんだ。
だけどいつも見ているだけ。その状態でやがて目が覚める。
それを繰り返してきたけれど、今日はもう我慢ができず、俺は俺が手にする丼を取ろうとした。
その時、いつもなら完全にこちらを無視している俺が俺を見た。
丼を取られようとしているのに、やけに嬉しそうにニヤリと笑う。
それを見た瞬間、俺は伸ばした手を引っ込めていた。
俺がまた何かを食べ始めるが、いつものように無関心できない。やたらチラチラとこちらを窺っている。
けれどもう、俺は俺から丼を奪う気はなかった。
おそらくだが、そこには、決して口にしてはいけないものが入っている。夢の中とはいえ、それを食べたら俺は何かの一線を越えてしまい、多分、現実でもその何かを食べたいと思うようになる。
そんなもの、絶対に食べない。『それ』への食欲を振り切り、俺は人間でいられるよう踏みとどまるんだ。
そう誓った瞬間、目が覚めた。
この時以来、自分が飯を食う夢を見ることはなくなった。
どうやら俺は、深層意識の底に眠る、厄介欲求に勝てたらしい。
夢の食事…完
最初のコメントを投稿しよう!