13人が本棚に入れています
本棚に追加
86 遅れてやって来た5人
今回で3回目だという同窓会は、11時半からファミレスを貸し切りにして、開始時刻は12時から。終了は2時半の予定となっている。
成川光海という、涼の彼女への質問を飛ばしまくる友人たちに、
「まずは飯を食わせろ」
涼はそう言い、
「まあ、みんな、落ち着いて。橋本の言う通りさ、ご飯頼もうよ。食べながら聞けばいいよ」
高峰もメニューに目を通し始め、渋々、といった形で、周りもメニューを見始める。
全員決まり、店員を呼んで、注文し。
「……そういうとこは、変わってねぇんだな……」
涼が注文し終えたところで、一人が言った。
「何が」
不思議そうな顔をする涼へ、
「季節モノと新作のデザート、全部頼むところ」
呆れたように言う。
「勉強の一環なんだけど?」
涼が言えば、
「……なんか、安心したわ」
「うん、お前、根本は変わってないんだな」
「橋本は橋本だな。うん」
その評価にどう反応すべきかと、涼が迷っているうちに全員分の注文が終わった。
「じゃあ橋本。改めて詳しく聞かせろ」
「その、成川さん? について」
「なんでそこまで食いつくかな……」
涼は呆れ顔になりながらも、スマホに画像を表示させ、
「光海」
それを見た周りは、
「え、思ってたんと違う」
「違うな」
「清楚系可愛い女子じゃん……」
「何がどうしてこんな子が彼女に」
「俺をなんだと思ってんだ」
涼が見せた画像は、この前の勉強会のあと、光海の家の屋上で撮ったもの。
『光海』
『なんですか?』
『これな、動画撮ってる』
『へ』
という経緯で得た動画から、一番映りが良いと思った箇所を、切り抜いたものだったりする。
「いやだってお前、……お前、こう、ギャル系が隣に居そうな変貌を遂げてるし」
「まあ、その、誰が誰をどう好きになるかは、未知数だけどさ」
「そもそも河南、こういうタイプ、少ないって聞くし」
「その少ないタイプの一人だよ。俺の変貌は認めるけど」
そこに、料理が運ばれてきて、ドリンクバーの注文をしていた友人二人が、そのことを思い出し、「ちょっと取ってくるわ」と、席を立った。
「で、高峰」
涼は、隣に座る高峰に顔を向ける。
「お前さ、具体的なこと全然教えてくんなかったけど。俺は誰にどう狙われるワケ?」
「それ、聞く?」「は?! お前、ここまで来て?!」
高峰と、残っていたうちの一人の声が被った。
「……だからさっきからなんなんだよ、その反応。無駄に不安になんだけど」
そこに、ドリンクを持った二人が戻って来る。
「なんか奇声が聞こえた」
「どうした、橋本の彼女さんの新情報か?」
席に戻った二人に、
「橋本、今の状況を全然把握出来てない。後ろから刺されるかもしれない」
別の一人が言う。
「物騒だなオイ。なんで刺されんだよ。俺、誰かに恨まれてんの?」
中学時代は、健全に過ごしていた筈だけど。そう、思い返しながら聞けば。
「……わー……うわー……」
「これは盾役が必要だわ」
「なんなんだよお前ら。俺もう食うわ。面倒になってきた」
涼は言って、カルボナーラを食べ始める。
それを見て、周りも食べ始めながら、
「……なんでこんなのに、あんな素直そうな彼女さんが」
「はっ倒すぞ」
「高峰、お前、盾になったら粉々にされねぇ?」
「今のところ大丈夫だから、大丈夫なんじゃない?」
「誰も声かけてこないことが、より怖いんだけど」
「まだここに来てない……のも、気になる」
俺は謎解きでもしてんのか。涼は思いながら、
「けど、場所がここで良かったわ。今はちょっと忙しいから、手土産的なもん作る暇、取れそうになかったし」
言えば、高峰以外の全員が、一瞬動きを止め、
「……そーゆーとこだよお前」
小声で言われたそれに、
「あ? どういう意味」
「橋本さ、月に2回くらい、周りに菓子配ってたろ」
「配るっつーか、ご自由にお取り下さい方式だったけど?」
涼はよく、カメリアのスイーツを再現したものや、試作品、周りに頼まれて、などで、学校に菓子を持っていっていた。しっかりと、学校側の許可を得て。
「無自覚得点王……」
「なんの得点だよ」
「……橋本さ、バレンタイン、どうしてたか覚えてねぇ?」
「覚えてるけど」
周りにアドバイスを求められ、答えたり。
不安だからと言われ、数人と一緒に作ったり。
持ってきて交換しようだとか、カメリアに買いに行くねだとか。
「そんな感じだったろ」
カルボナーラを食べ終えた涼は、デザートを持ってきてもらうために、呼び出しをかける。
「橋本さ、成川さんが同じことしてたら、どう思う?」
高峰の問いかけた内容を、涼は想像してみて。
「……ズルい」
高峰はそれに、苦笑して。
「それ、橋本と成川さんを入れ替えて考えた?」
「そーじゃねぇの?」
「そういう方向じゃなくてね、えーと。男女を逆転──」
「遅れたー! ごめん!」
ファミレスに、そんな声が響き、同窓会メンバーが数人、入ってきた。
「来た」
「ついに来た」
「避難したい」
「高峰に全てを託す」
友人たちの呟きで、どうやらこのメンバーが危ないらしいと、流石に涼も、理解した。
涼はテーブルに来た店員にデザートを頼み、聞き覚えのある声のほうへ、顔を向ける。
「……佐々木たちじゃん」
髪色や髪型が変わっていたせいか、メイクのせいか、一瞬分からなかったが、遅れてやって来たのは、佐々木莉々花を含めた、中学時代に特に関わりのあった5人の女子だった。
「見るな。穏便に生きていきたいなら」
「声、小さくしとけ」
「あと下向いてろ。こっちに気付かれる前に」
「……」
涼はスマホを取り出し、高峰に確認のメッセージを送る。
『あの中の誰かが、俺を狙ってんの?』
それを見た高峰は、困ったような、呆れたような顔をして、
『全員』
涼はそれに、目を見開く。そして、少し考えて。
『だとして、中学の時の話だろ。なんで今そこまで警戒するんだよ?』
リニューアルしたというパフェを食べながら、送信。そしたら、高峰から、ラインの会話のスクショが、数枚送られてきた。
『橋本が来るってマジ?!』
『一応、参加予定だよ』
『絶対連れてきて! 本気出すから!』
『えーとさ、橋本、付き合ってる人いるよ』
『は? だれ。どこのどいつ』
『聞いてどうするつもりか、聞いていい?』
『あっそ。分かった。マジの本気でいくから』
それは、高峰と莉々花の会話のスクショ。
残りの4人分も、大体同じ内容で。
「……」
パフェを食べかけていた涼は、読み終わったそれに向けて、苦い顔をしながら、
『負担かけた。悪い』
高峰にそう送り、新作だというピスタチオのアイスを一口食べる。
なんかもう、今すぐ帰りたい。光海の顔を見たい。
そう思いながら、こちらも新作だというライチのソルベを一口。
そのテーブルに、
「……橋本? 橋本だよね?」
莉々花たちが来た。
「……おー、久しぶり」
無視するか、忘れたフリをするか。一瞬考えた涼は、第三の選択肢、何も分かっていないアホを演じることにした。
「あ、私のこと覚えててくれてた?」
「そりゃあ、まあ。佐々木たちには世話んなったし」
中学時代、涼は、スイーツ研究のために、女子目線のアドバイスを周りに求めたことがある。それに最初に応じてくれたのが、莉々花たちだった。
そのあとも、涼は莉々花たちにアドバイスを求め、莉々花たちも涼に、スイーツについてや勉強のアドバイスを求めてきたりした。
なので、ついさっきまでは、中学時代の恩人たち、だと思っていた5人が。
「マジ? 嬉しい。それとさ、何その髪! あとピアス! すっごい派手じゃん! これぞ河南ってカンジ。……席、この辺満杯じゃん。どこ座る?」
莉々花がリーダーなのかなんなのか。5人からビシバシと視線と圧を感じ、端的に言えば、とても、居心地が悪い。
「あっち、空いてるぞ。俺はここに居るけどさ」
暗に、お前も来いと言われている気がした涼は、空いているテーブルを示し、慣れないなりに選んだ言葉を口にした。
「……そうだね、あっち行こっか」
一瞬目を細めた莉々花たち5人は、全員でそのテーブルへ向かっていく。
5人がそこへ、座るのを確認してから。
「……帰りたい」
涼はドッグタグを握りしめ、げっそりした声で呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!