86 遅れてやって来た5人

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86 遅れてやって来た5人

 今回で3回目だという同窓会は、11時半からファミレスを貸し切りにして、開始時刻は12時から。終了は2時半の予定となっている。  成川光海という、涼の彼女への質問を飛ばしまくる友人たちに、 「まずは飯を食わせろ」  涼はそう言い、 「まあ、みんな、落ち着いて。橋本の言う通りさ、ご飯頼もうよ。食べながら聞けばいいよ」  高峰もメニューに目を通し始め、渋々、といった形で、周りもメニューを見始める。  全員決まり、店員を呼んで、注文し。 「……そういうとこは、変わってねぇんだな……」  涼が注文し終えたところで、一人が言った。 「何が」  不思議そうな顔をする涼へ、 「季節モノと新作のデザート、全部頼むところ」  呆れたように言う。 「勉強の一環なんだけど?」  涼が言えば、 「……なんか、安心したわ」 「うん、お前、根本は変わってないんだな」 「橋本は橋本だな。うん」  その評価にどう反応すべきかと、涼が迷っているうちに全員分の注文が終わった。 「じゃあ橋本。改めて詳しく聞かせろ」 「その、成川さん? について」 「なんでそこまで食いつくかな……」  涼は呆れ顔になりながらも、スマホに画像を表示させ、 「光海」  それを見た周りは、 「え、思ってたんと違う」 「違うな」 「清楚系可愛い女子じゃん……」 「何がどうしてこんな子が彼女に」 「俺をなんだと思ってんだ」  涼が見せた画像は、この前の勉強会のあと、光海の家の屋上で撮ったもの。 『光海』 『なんですか?』 『これな、動画撮ってる』 『へ』  という経緯で得た動画から、一番映りが良いと思った箇所を、切り抜いたものだったりする。 「いやだってお前、……お前、こう、ギャル系が隣に居そうな変貌を遂げてるし」 「まあ、その、誰が誰をどう好きになるかは、未知数だけどさ」 「そもそも河南、こういうタイプ、少ないって聞くし」 「その少ないタイプの一人だよ。俺の変貌は認めるけど」  そこに、料理が運ばれてきて、ドリンクバーの注文をしていた友人二人が、そのことを思い出し、「ちょっと取ってくるわ」と、席を立った。 「で、高峰」  涼は、隣に座る高峰に顔を向ける。 「お前さ、具体的なこと全然教えてくんなかったけど。俺は誰にどう狙われるワケ?」 「それ、聞く?」「は?! お前、ここまで来て?!」  高峰と、残っていたうちの一人の声が被った。 「……だからさっきからなんなんだよ、その反応。無駄に不安になんだけど」  そこに、ドリンクを持った二人が戻って来る。 「なんか奇声が聞こえた」 「どうした、橋本の彼女さんの新情報か?」  席に戻った二人に、 「橋本、今の状況を全然把握出来てない。後ろから刺されるかもしれない」  別の一人が言う。 「物騒だなオイ。なんで刺されんだよ。俺、誰かに恨まれてんの?」  中学時代は、健全に過ごしていた筈だけど。そう、思い返しながら聞けば。 「……わー……うわー……」 「これは盾役が必要だわ」 「なんなんだよお前ら。俺もう食うわ。面倒になってきた」  涼は言って、カルボナーラを食べ始める。  それを見て、周りも食べ始めながら、 「……なんでこんなのに、あんな素直そうな彼女さんが」 「はっ倒すぞ」 「高峰、お前、盾になったら粉々にされねぇ?」 「今のところ大丈夫だから、大丈夫なんじゃない?」 「誰も声かけてこないことが、より怖いんだけど」 「まだここに来てない……のも、気になる」  俺は謎解きでもしてんのか。涼は思いながら、 「けど、場所がここで良かったわ。今はちょっと忙しいから、手土産的なもん作る暇、取れそうになかったし」  言えば、高峰以外の全員が、一瞬動きを止め、 「……そーゆーとこだよお前」  小声で言われたそれに、 「あ? どういう意味」 「橋本さ、月に2回くらい、周りに菓子配ってたろ」 「配るっつーか、ご自由にお取り下さい方式だったけど?」  涼はよく、カメリアのスイーツを再現したものや、試作品、周りに頼まれて、などで、学校に菓子を持っていっていた。しっかりと、学校側の許可を得て。 「無自覚得点王……」 「なんの得点だよ」 「……橋本さ、バレンタイン、どうしてたか覚えてねぇ?」 「覚えてるけど」  周りにアドバイスを求められ、答えたり。  不安だからと言われ、数人と一緒に作ったり。  持ってきて交換しようだとか、カメリアに買いに行くねだとか。 「そんな感じだったろ」  カルボナーラを食べ終えた涼は、デザートを持ってきてもらうために、呼び出しをかける。 「橋本さ、成川さんが同じことしてたら、どう思う?」  高峰の問いかけた内容を、涼は想像してみて。 「……ズルい」  高峰はそれに、苦笑して。 「それ、橋本と成川さんを入れ替えて考えた?」 「そーじゃねぇの?」 「そういう方向じゃなくてね、えーと。男女を逆転──」 「遅れたー! ごめん!」  ファミレスに、そんな声が響き、同窓会メンバーが数人、入ってきた。 「来た」 「ついに来た」 「避難したい」 「高峰に全てを託す」  友人たちの呟きで、どうやらこのメンバーが危ないらしいと、流石に涼も、理解した。  涼はテーブルに来た店員にデザートを頼み、聞き覚えのある声のほうへ、顔を向ける。 「……佐々木たちじゃん」  髪色や髪型が変わっていたせいか、メイクのせいか、一瞬分からなかったが、遅れてやって来たのは、佐々木莉々花(りりか)を含めた、中学時代に特に関わりのあった5人の女子だった。 「見るな。穏便に生きていきたいなら」 「声、小さくしとけ」 「あと下向いてろ。こっちに気付かれる前に」 「……」  涼はスマホを取り出し、高峰に確認のメッセージを送る。 『あの中の誰かが、俺を狙ってんの?』  それを見た高峰は、困ったような、呆れたような顔をして、 『全員』  涼はそれに、目を見開く。そして、少し考えて。 『だとして、中学の時の話だろ。なんで今そこまで警戒するんだよ?』  リニューアルしたというパフェを食べながら、送信。そしたら、高峰から、ラインの会話のスクショが、数枚送られてきた。 『橋本が来るってマジ?!』 『一応、参加予定だよ』 『絶対連れてきて! 本気出すから!』 『えーとさ、橋本、付き合ってる人いるよ』 『は? だれ。どこのどいつ』 『聞いてどうするつもりか、聞いていい?』 『あっそ。分かった。マジの本気でいくから』  それは、高峰と莉々花の会話のスクショ。  残りの4人分も、大体同じ内容で。 「……」  パフェを食べかけていた涼は、読み終わったそれに向けて、苦い顔をしながら、 『負担かけた。悪い』  高峰にそう送り、新作だというピスタチオのアイスを一口食べる。  なんかもう、今すぐ帰りたい。光海の顔を見たい。  そう思いながら、こちらも新作だというライチのソルベを一口。  そのテーブルに、 「……橋本? 橋本だよね?」  莉々花たちが来た。 「……おー、久しぶり」  無視するか、忘れたフリをするか。一瞬考えた涼は、第三の選択肢、何も分かっていないアホを演じることにした。 「あ、私のこと覚えててくれてた?」 「そりゃあ、まあ。佐々木たちには世話んなったし」  中学時代、涼は、スイーツ研究のために、女子目線のアドバイスを周りに求めたことがある。それに最初に応じてくれたのが、莉々花たちだった。  そのあとも、涼は莉々花たちにアドバイスを求め、莉々花たちも涼に、スイーツについてや勉強のアドバイスを求めてきたりした。  なので、ついさっきまでは、中学時代の恩人たち、だと思っていた5人が。 「マジ? 嬉しい。それとさ、何その髪! あとピアス! すっごい派手じゃん! これぞ河南ってカンジ。……席、この辺満杯じゃん。どこ座る?」  莉々花がリーダーなのかなんなのか。5人からビシバシと視線と圧を感じ、端的に言えば、とても、居心地が悪い。 「あっち、空いてるぞ。俺はここに居るけどさ」  暗に、お前も来いと言われている気がした涼は、空いているテーブルを示し、慣れないなりに選んだ言葉を口にした。 「……そうだね、あっち行こっか」  一瞬目を細めた莉々花たち5人は、全員でそのテーブルへ向かっていく。  5人がそこへ、座るのを確認してから。 「……帰りたい」  涼はドッグタグを握りしめ、げっそりした声で呟いた。
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