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89 遭遇≒再会
寝る支度をして、全員がお風呂に入ったら、午前3時を過ぎていた。
なので、起きてから短編集を読むことにして、就寝。
朝の7時に起きて、順番に朝の支度をして、朝ご飯のご相伴に預かっていたら、雨が降ってきた。
「あれ、雨降る予報だったっけ」
私の疑問に、
「曇りだったと思う」
マリアちゃんが答えてくれた。
「結構な降りだねー」
桜ちゃんの言う通り、降り始めたばかりだというのに、ザーザー大きな雨音がするし、窓に雨粒がビシバシ当たってる。
「みんな、折り畳みとかの傘、持ってきてる? このまま降り続けるなら貸すよ」
「持ってきてないので、やまなければ、貸してもらえると助かります」
「私も貸してほしいな。持ってきてない」
エイプリルさんとマリアちゃんはそう言い、
「んー……折り畳み、持ってるけど……この降りのままなら、大きな傘、借りたいかな」
私も少し迷いつつ、そんなふうに言った。
そのあと、マリアちゃんは仕事があるからと傘を借りて帰って。
桜ちゃんとエイプリルさんは感想とファンレターに取り掛かり、私は短編集をお借りして、読ませてもらう。
短編集の作品はファンタジー系や戦記物が多く、話もシリアスなストーリーが多い。けど、当たり前っちゃ当たり前だけど、ガシャクロに通ずるものがあるし、真に迫るシーンの描写は、読んでいて引き込まれる。
上下どっちも読んで、やっぱ、面白いな。買おうかな。と思ってしまった。
涼も、桜ちゃんに押されて、ガシャクロの続きを少しずつ買うようになったし、短編集も買うか悩んでたし。
買って、日向子さんに見せて、涼に読んで貰うも良し。涼が買うのも良し。
それを涼にラインで送って、そろそろ帰らないとな、と外を見れば、
「……降ってるなぁ」
風の勢いは少し弱まってるけど、雨の勢いはそのままで。
桜ちゃんに、傘を貸して貰うことにして、帰りの支度の確認をして、
「お邪魔しました」
と、桜ちゃんの家をあとにした。エイプリルさんと桜ちゃんは、もう一回、昨日の1話を観るらしい。
「……?」
駅までの住宅街の道を歩いていたら、なんか黒っぽいものが先に転がってるのが見えた。
「……ゴミ……?」
にしては大きいし……と、少しずつ近付いていったら。
「ひ、ひと……!」
黒いコートの人がうつ伏せに倒れてるのだと、理解した。
「だ、大丈夫ですか?!」
こんな雨の中で。めっちゃずぶ濡れだし。傘持ってないし。いつからここに?
「あの、大丈夫ですか? 生きてますか? 意識はありますか?」
しゃがみ込み、肩を叩いてみる。僅かに反応したけど、呻くだけで、明確な反応は無し。顔は、横を向いてるけど、長めの髪が全体に張り付いていて、判別不能。けど、雨に打たれていたせいか、顔色が悪く見える。体格は細身に見えるけど、分厚いコートを着てるから、正確には分からない。その関係で見た目の性別も判別不能で、なんとなく、若く思えるだけだ。
「救急車、呼びますね」
折り畳み傘を出して広げてから、それを自分に差し、借りた傘をその人の顔の所に置き、スマホで住所を確認して、119番、しようとして。
「……なりかわ……?」
はい?
驚いて動きを止めてしまったら、その人が、傘をどかしながら身を起こし。
「……成川じゃん」
髪をかき上げた、その顔を見て、反射的に身を硬くした。
──五十嵐、弘和。
中学3年間ずっと、私を散々馬鹿にしてきた不良の、筆頭。涼に言われて、一番にブロックした奴。
驚きと不快感で、動けずにいたら。
「……はは、その、カオ、……笑う……ばかじゃ、ねぇ……の……」
半笑いのまま、倒れた。
「ばっかみてぇ……アホらし……あー……頭ぐるぐるする……」
焦点の合ってない目と、体調を崩してると分かる顔色と、混濁してるように思える意識。逃げるべきか、どうすれば良いか、そのまま呆然と見つめていたら。
五十嵐が盛大に噎せて、血を吐いた。
「……あー……あのヤロー……なんのクスリだぁ、これ……」
「……」
私は119番して、最低限のことを伝えて、切って。
「……」
少し迷ってから、私の傘を五十嵐の近くに置き、桜ちゃんから借りた傘を拾って、走って大通りのコンビニに、逃げ込んだ。
◇
顔を見て、胸の冷えが薄れた。
行ってしまって、胸の冷えが強くなる。
「だからさぁ……損する、性格、してんだよ……お前……」
ボヤけ、時折明滅する視界の中、置いていった傘を掴めば、また、少しだけ、冷えが収まる。
「俺のこと……嫌いな、くせに……」
あの声で戻った意識が、朦朧としてきて。
遠くで、救急車の音を聴きながら。
このまま死ねれば良いのに。
そう思ったところで、意識は、完全に闇に落ちた。
◇
「ごめんな。怖かったろ。その場に居なくてごめん」
それに何も言えなくて、涼の胸に顔を埋めたまま、服を掴む手に力を込めた。
涼は抱きしめる腕に力を込めてくれて、それに少しだけ、安心する。
「光海。ここは安全だから。ソイツは居ない。来ない。絶対に」
頭を撫でてくれて、ぐちゃぐちゃな感情が、涙という形で外に出る。
あのあと、コンビニで涼に電話して、なんとか状況を伝えて、そしたら、歩きと電車で1時間弱かかるのに、30分しないで来てくれた。
『悪い。父さん、今、出かけてて。車出せなかったから、タクシー使った』
そう言って、その場で抱きしめてくれて、
『家に送るで、良いか? 警察行くか? どうしたい?』
『涼、と、居たい』
『分かった』
乗ってきたタクシーを停めていてくれたみたいで、それに乗って、家まで送ってもらって。
父と祖父母と愛流と彼方と勇斗と、あとマシュマロも家に居たけど、涼は、父と祖父母にだけ話をしてくれて。
『俺、このまま一緒に居て、良いですか?』
父も祖父母も、そうしてくれって、言ってくれて。
バイト先にも、涼から、私が体調崩したから休むって、連絡してくれて。
そして今、私の部屋で、私を、抱きしめてくれている。
「……りょう……」
「ん」
「どうすれば、よかったかな……なんで、助けちゃったんだろ……」
アイツに、五十嵐に、情けをかけた、自分が許せない。
「光海。考えたくないことは、無理して考える必要ない。光海は今、とっても傷ついてる。傷を癒そう。今はそれを考えよう」
「でも、……でも、倒れて、血、吐いて、クスリとか、言った……なんで、アイツを、助けなくちゃいけなかったの……! 何で倒れてたワケ?! 倒れてる人がいたらさ、普通、助けようと思わない?! 思うよね?! 何でそんなとこに出くわさなきゃならなかったの! 何で倒れてたのアイツ! 馬鹿じゃないの?! 馬鹿だよね?!」
「ああ、馬鹿だと思う」
「なに?! もう、訳分かんない! アレに遭うまで! ずっと楽しい気持ちだったのに! アレのせいで台無し! ぶち壊された! 涼が! ……涼が、来てくれて。今、こうしてくれて。そうじゃなかったら、私、どうなってたか、分かんない……どうしてたか、分かんない!」
縋り付いて、泣きじゃくって。
涼はずっと抱きしめてくれて、頭を撫でてくれて。
「うん。そうだよな。そうなるよ。光海は何も悪くない。全部ソイツのせい。光海は悪くない。大丈夫。俺、居るから。ずっと居るから。ずっとこうしてるから。光海。大好きだよ。お前が大切だ。光海のために出来ることなら、何でもする。光海。お前は悪くない。何も悪くない。大丈夫」
ずっと、そう言ってくれた。
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