第三章 過去のしがらみ

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「葵さん、ぼうっとして、どうしました?」 「あ、いえ。こうやって仕切りがあると、本物の美術館みたいになるなって、感動していました」 「感動するのはこれからです。届いた作品をあらためて確認しましょう」 「はい」  絵画は今のところ玄関ホールに置かれている。ホームズさんは目録を手にしながら、指差した。 「こちらが高宮さんが寄託してくださった作品です。あの方が所蔵しているのは主に、蘆屋大成――円生の父親の作品が多いですね」  高宮さんとは、京都の岡崎に住む大富豪だ。美術品を愛し、芸術家を育てることにも尽力している。そんな高宮さんはかつて、円生の父親『蘆屋大成』の実力を認め、その才能を応援していた。父親の作品が多いのは、当然だろう。  そう、ここには、円生父子の作品が集められたのだ。 「円生さんの絵はどれですか?」 「どれだと思いますか?」  ホームズさんに質問したところ、逆に問い返されてしまい、私は緊張した。  高宮さんが寄託してくれた絵画は、六点。日本の風景画が二枚、中国の風景画が三枚、曼荼羅が一枚。そのうちの四点が十号。いわゆるよく見る絵画のサイズだ。  大きいのは、二枚。『金剛界曼荼羅』と中国の風景画だ。  どちらも100号だそうだ。  目録を見ると、作品タイトルは『長安』と書かれている。 「……長安」  その絵を観て、納得した。  京都のように綺麗に区画化された町並み。  朱色の宮殿が鮮やかに美しく、大輪の牡丹や鳥、生き生きと舞う妓女たち。  華やかで、生き生きと生命力に満ちている。  覗き込めば、この世界の中の音が聞こえてきそうな気がした。  見ていて目頭が熱くなる。
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