プロローグ

2/15
961人が本棚に入れています
本棚に追加
/225ページ
 それでも探偵業だけでは食べていくのが難しく、最近は副業でゲームのプログラミングなども請け負っている。  これが本業よりも金になるのだから、複雑な気分だ。  ここでひとつ言い訳をさせてほしい。  経営が厳しいのは、事務所の家賃の高さも関係しているのだ。  我が小松探偵事務所は、祇園――木屋町四条下ルにある。  町家をリノベーションした趣のある建物で、気に入ってはいるのだが、いかんせん家賃が高い。立地的に仕方がないのだが……。  そんなところ借りなければ良いだろう、と何人かに突っ込まれた。自分でもそう思っている。元々、この町家は依頼人の住居であり、借りてくれる人を探していたので、ついつい、という流れだった。  そんなわけで家賃のために今は副業の方に専念しようと、探偵業を休業しているという本末転倒な状態だ。  田所敦子が、うちを訪ねてきたのは、そんな折だ。  敦子は、祇園で華道教室を開きながら、一方で合法的に秘密クラブを経営している五十代の女性だ。仕事柄か、若々しさと妖艶な美しさを併せ持っている。  敦子とはある事件を通して知り合っており、今や町ですれ違ったら、足を止めて談笑するくらいには顔馴染だ。  そんな彼女は俺が探偵業を休んでいると知ると、清貴がいる『蔵』を訪れた。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!