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そこにいたのは、サリー・バリモアと、藤原慶子さんだった。
「サリー、慶子さん!」
二人に招待券を送ってはいたが、まさか本当に来てくれるとは思っておらず、驚いて、駆け寄った。
「観てきたわよ、あなたの展示。なかなか良かったわ」
サリーは日本語でそう言って、ニッと白い歯を見せた。かつて日本人キュレーターと交際していたため、サリーは日本語を話せるのだ。発音は外国人そのものだけど。
ありがとうございます、と私は会釈をする。
でも、とサリーは続けた。
「あくまで特待生レベルの話ね。プロの仕事として評価した場合は、絶賛できるほどではない。粗削りだし、独りよがり。作品に助けられている部分が多い。とはいえ、あなたが、『円生』というクリエイターの作品をどんなふうに観てもらいたいか、その想いはストレートに伝わってはきたわね」
サリーの言葉に私が頷いていると、慶子さんが耳打ちした。
「葵さん、サリーはこうは言うけど、『特待生レベル』というのは、褒め言葉なのよ。気に入らなかったら、『あんなんじゃあ、私の特待生とは言えない』って言うから」
話が聞こえていたらしく、サリーはばつが悪そうに目をそらす。
「そして葵さん、サリーはね、悔しかったんですって」
えっ? と私は訊き返す。
「あなた方がニューヨークに来た時、サリーはいろいろと忙しかったから『特待生』を作りながらも、ほとんど放置だったでしょう? だから、あらためてきちんと教えたいと思ったそうなの。けど、あなたに断られてしまったわけで、『師匠としての良さを伝えられないまま、振られてしまった』って」
そんな、と私は肩をすくめる。
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