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「ですが本心でもあります。実はサリーの記事を読んでから、サリーの申し出を断って良かったのだろうかと、ずっと考えていました」
彼がそんなふうに考えていたことに、私は少しも気付いていなかった。
「――葵さん、僕も大学院を修了した後、祖父に修業に出るよう言われたでしょう? それは、僕に井の中の蛙になってほしくないという祖父の師匠心でしたよね」
オーナーは、ホームズさんに広い視野を持ってもらいたかったのだ。
「僕も同じように思うんですよ。先日、『神の箱庭』の話をしましたが、僕はあなたに小さな箱庭しか知らずにいてほしくないんです」
婚約者としては、片時も離れたくないのですがね、と彼は苦笑する。
それが彼の本心であるのが、伝わってきた。
婚約者としては寂しい。
だが、師匠としては、私に広い世界――大海を知ってほしいと思っている。
私は、サリーの方を見た。
彼女の申し出は、身に余る光栄だ。
「ありがとうございます。前向きに考えさせてください。そして、彼が言ってくれたように、そのお話は大学を卒業してからでも良いでしょうか?」
ええ、とサリーは嬉しそうに目を細める。
「待ってるわ。アメリとクロエとともにね」
「私も楽しみにしているわね」
そう言う二人に、ありがとうございます、と私は深く頭を下げた。
「それにしても、あなたの師匠は、相変わらずハンサムね。離れがたくなるのも分かるわ」
ふふっと笑うサリーに、私は頬を赤らめる。
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