先輩、可愛いがすぎるぜ!

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返却された図書を該当の棚へしまうのも俺たちの仕事だと言われたけど、俺はこの作業が死ぬほど嫌いだ。 せっかく図書委員になったのにな。 あんま楽しくねぇな。 図書委員は人気だ。各クラスなれるのはたった一人だけ。俺、じゃんけんは得意なんだよね。 一学年4クラスずつ合計十二人の委員がいて、二人コンビになりいろいろな仕事を各係が担当する。 一年の俺は三年の女子の先輩とコンビになったのだけど、担当した放課後の仕事は返却本の片づけや破損チェックや修理などの雑務ばっかりだった。 「先輩、俺、思ってたのと違うんですけど」 「なにが?」 「図書委員って、カウンターで本渡して、他のクラスのカワイイ子に本返してもらって、会話したりとかなんかしたりとか、そういうんじゃないんですか」 「佐伯君、思春期だね」 「あ、ちょ、その言い方はハズイっす」 「やい思春期、図書委員なめんじゃねぇぞ」 「ん、先輩なんかそれいいッスね。カワイイ人がちょっと口悪くなるの」 「かわいい?」 「あ、いや、そういうんじゃなくて。深い意味はないです」 「無いのかよ」 三年生は十月いっぱいで受験に向けて引退となる。 「佐伯君さ、私が引退する前にこの仕事全部覚えてね」 当然、俺とコンビの先輩もだ。 「小山先輩は頭いいから受験なんて余裕でしょ?最後までいればいいのに」 「余裕ではないけど、まあ、苦労はしないよね。国立受ける訳じゃないし」 「だったらさぁ、もっと一緒にやろうよぉ。やめないでよぉ」 「甘えるな、後輩よ。ほら、197・マ・4、その、一番下の段の、そこ」 「はい。だー、もうここキチキチなんだよなぁ」 多くの本が入っている棚は、場所によって隙間がほとんどない。だからこういう時は入れるのに苦労する。 俺が一生懸命詰めていると、頭の上でクスクスと声が聞こえた。 「佐伯君、ウケる。なにそれ、かわいくない?」 何冊も本を抱えている体の小さい小山先輩がほっぺたをぷるぷるさせて笑っていた。 「かわいくねーし」 「だって、口、とんがって、ぶーって。きちきちなんだよなぁって。小学生かよ。くふふふ」 「ねえ、小山先輩、似てないよ。俺そんないい方してないじゃん」 俺はこの人にこうやって扱われるのが嫌いだ。 だって、子ども扱いして。こんなの、嫌いだ。 「ねぇ、もう止めてよ。バカにすんなよ」 「してないよ、かわいいって言ったの」 「それがバカにしてるって言ってんの。わかってるくせに。ズルいよ先輩」 ズルいよ。 そうだよ、先輩は多分俺の気持ちは知ってるはず。はっきりとは言ってないけど、俺はそういうふうに接しているから。 年上って、ムズい。 「ズルいってなに?」 先輩はなぜかちょっと怒ってるみたいだった。 声がさっきと違う。 「わかってるくせにって何?わかんないよ、何にも。そんなのわかんないよ」 「だって先輩、俺のことなんて見てないのわかってるし。俺だってガチでいって嫌われんのヤだもん」 だって、高三の先輩と、中学から来たばかりの一年の俺とじゃ差がありすぎて、見るからにガキと大人だった。だから何となくふざけてしまう。 でも好きだから、年下ってことを盾に色々とちょっかいだしたり甘えたりして、自分で茶化して、この半年やってきてしまった。 でも、引退したらもう会えないかもしれない。 卒業しちゃったら、全部、終わっちゃうんだよな。 「そう、そうだね。わかった」 そうしてまた俺たちは元に戻り、返却図書を入れていく。 最後の一冊は少し上の棚だった。 「あ、あった。ここみたいです」 俺が手を出して先輩から本をもらう。 「え、ちょっと、手ぇはなしてくんないと」 小山先輩は返却本を両手で持ったまま、俺をじっと見ている。怒ったような泣いてるような困ったような顔。 「私だってね、照れるとか恥ずかしいとか嫌われたくないとか、そういう感情はあるんだよね」 「あ、はい」 「佐伯君にとってはすごく上の先輩かもしれないけど、2コしか離れてないんだから」 「ま、そう、ですね・・・」 いつもの先輩のちょっとふざけてる感じとは違う声。 俺は急に変わった先輩にちょっと戸惑って、一言返事をするのが精一杯だ。 「勝手に年上の女みたいにするのやめて欲しい」 「え、なに?え?」 「余裕そうに見えた?」 「う、ん。まぁ、相手にされてないのかなって、思って・・・」 「ぜんぜん、よゆうなんて、ないんだよ」 小山先輩は、そういうと、なんと、泣いてしまったんだ。 それからの俺はもうどう対処したのか記憶も曖昧だけど、必死で先輩をなだめていたのは確かだ。慌てすぎて、たぶん俺はめちゃくちゃカッコ悪かったと思う。 だけど、本棚の間でぺっちゃんこに座って泣いている先輩はちっちゃくてかわいくて、俺は横にしゃがんで必死で頭をなでて、涙を拭いてあげた。 それでも泣き止まないから、もう、しょうがない。 勇気を振り絞って、ギュッとしてみたら・・・ 一瞬で泣きやんだ。 これ、俺、なんか・・・ 図書委員、マジ楽しいわ。 しばらくそうしていると、なんだか変な感じになってきちゃって、俺はちょっと期待して、先輩の顔に近づいた。 こういう時、どうすればいいんだ?顎とかクイってすんのか?こうか? だけど。 「ちょ、っと。なにしてんの」 先輩は俺の顔に思いっきり手を伸ばして、ほとんど突き飛ばすみたいに押した。 うそでしょ。なんで? 「あのね、君はさ、ちょっとそういうとこあるよ」 「そういうとこ?」 「なんとなく流れでどうにかなんないかなみたいに生きてるでしょ」 「いや、別にそういうわけじゃ・・・」 「今、なんとなくどうにかしようとしたでしょ?」 もう、何も言い返せない。 だって本当のことだから。 「だめ?」 「ダメに決まってるじゃん。付き合ってもないのに」 「え、でもそういうことじゃないの?俺ダメだと思ってたけど、さっきの流れはそういうことでしょ?ちがうの?」 「そうだけど、ちゃんと言ってないじゃん」 「あ、じゃ言う、言います。好きです付き合ってくださいキスしたいですめっちゃしたいです今したいです」 「ダメです」 「はあ?」 「付き合うのは良い。でもそういうのはダメ」 「あぁ、もう、なんで?俺は無理ですもう全然無理ですけどっ」 「だって」 先輩はまたちっちゃくなって俯いてブツブツとつぶやいた。 「だって、受験勉強できなくなっちゃう・・・」 俺はその場に崩れ落ちる。 「先輩・・・可愛いがすぎるぜ・・・」 わ、わかった。わかったよ先輩。 受験が終わるまで我慢・・・・ って、 そんなのできる気がしねえ! End
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