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melody-13
恋愛の仕方を忘れた、とも少し違う。そもそも自分を晒すのがもうトラウマみたいなところがある。受け入れてもらえるかな、受け入れられる?こんな私……その境界を自分から越えられない、飛び込んでいけない、怖くて避けてしまう。
そんな状態で恋愛も何もない。相手を好きになる前の話、私が私を晒せないんだから。
年齢を重ねるたび悩みは増える。肌質も体質も変化が起きて常日頃なにかしら悩まされている。それなのに本質の体はなにも変わらないのがまた切ない。体の創りだけが満たされないまま完成してしまっていてそれに見合わない悩みは年と共について回る。どうしようもないことなのにどうにかしたくてあがいて結局どうしようも出来ない。
これが私なのだ、そう自分で受け入れるしかない。でも相手にもこれを受け入れて?と言えない、言えるわけがない。
受け入れてもらえなかったトラウマがそんな言葉を噤んでしまうから。だからもう色んな意味で無理なんだ。誰かと恋愛さえ億劫なのに今さら蒸し返すみたいに先輩と見つめ合う時間など持てる気がしない。
そう思っていたのに。
どうして?まさか、そんなバカな!
「皐月」
なんでいるんだ、先輩が。
「待って!待ってってば!」
思わず先輩の前から逃げるように背を向けて、小走りで逃げ出したけれど足の長さが違いすぎる。あっという間に追い付かれて捕まってしまう。
「逃げないで、お願い」
「逃げ、逃げますよ!なんで会社まで来るんですか!」
「連絡するなって言ったのは皐月だろ?!連絡しないで会う方法これしかない!これ以外思いつかない!」
「れ、連絡するなは個人的にって意味で社用の方に連絡くだされば済む話ですが!」
「個人的に連絡したいから社用には無理だし、吉岡さんに周知もさせたくない!するつもりだってない!」
頑として言われたら何も言い返せない。
「頼むよ、話しさせてほしい。皐月とちゃんと話がしたいんだよ」
「今さら……話すことなんか」
「今さらだけど、話したい。皐月の事忘れたことなんかないから」
そのセリフは殺し文句だ。私だって……それはなんとか飲み込んだ。
「お願い……」
イケメンが手を掴んで頭を下げている。その姿はどうしたって人目に付くしここは会社前、無駄に注目されてお互い変な噂を立てられても困る。
「と、とりあえず……い、行きましょ?ここではちょっと……」
「話させてくれる?」
「とにかくここを離れ……「話させてくれる?!」
押しが強いな!先輩ってこんな感じだった?いや、今はもう思い出す隙も無いけれど。
「き、聞きます、聞きますので!」
「ほんと?!良かった!じゃあ来て!」
「え?!」
ぐいっと引っ張られて、有無を言わさず引っ張られて、何言っても聞いてくれないまま引っ張られて辿り着いたのはまさかの先輩のアパートだった。
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